弦楽三重奏曲 (ドヴォルザーク)

ドヴォルザーク：弦楽三重奏曲 ハ長調 作品74 B.148

アントニン・ドヴォルザークが1887年に作曲した《弦楽三重奏曲》ハ長調 作品74（B.148）は、同年に出版された室内楽作品です。通常の弦楽三重奏の編成はヴァイオリン、ヴィオラ、チェロですが、この作品ではヴァイオリンが2本とヴィオラという、やや変則的な編成が採用されています。これは、作曲家自身がヴィオラを演奏し、当時ドヴォルザーク家に部屋を借りていた学生ヨセフ・クルイス（化学科専攻ながら音楽に親しみ、ヴァイオリンを学んでいました）と、彼のヴァイオリン教師であった国民劇場管弦楽団員のヤン・ペリカーンがヴァイオリンを演奏することを想定して書かれたためです。わずか数日間という短期間で集中的に書き上げられたと言われています。

しかし、作曲者が想定していたアマチュア演奏家であるヨセフ・クルイスにとって、この三重奏曲は演奏が困難であることが明らかになりました。そこでドヴォルザークは、より容易に演奏できるよう配慮した新たな室内楽作品を作曲することになります。これが《ミニチュアール》作品75として知られる作品です。さらにこの《ミニチュアール》は、後に作曲家自身の手によってヴァイオリンとピアノのために編曲され、《ロマンティックな小品》作品75aというタイトルで発表され、今日でも広く演奏されています。

作品74としての《弦楽三重奏曲》は、作曲と同年の1887年3月30日にプラハで初演が行われました。この時の演奏は、ヴァイオリンをカレル・オンドジーチェク（名ヴァイオリニスト、フランティシェク・オンドジーチェクの兄弟）とJan Buchal、ヴィオラをJaroslav Šťastnýが担当しました。楽譜は同年中にドイツの出版社ジムロックから出版されています。

楽曲構成

この三重奏曲は以下の4つの楽章で構成されており、全体の演奏時間はおよそ19分です。

第1楽章：INTRODUZIONE: Allegro ma non troppo

ハ長調、4分の4拍子。三部形式で書かれた導入的な楽章です。まず抒情的な性格を持つ主題が提示され、楽章が開始されます。中間部では、冒頭の素材から派生した、力強く動きの速い音楽が現れ、対照的な雰囲気を生み出します。その後、冒頭の主題が再び現れ、楽章は閉じられます。この楽章はアタッカの指示により、休むことなくすぐに次の楽章へと繋がります。

第2楽章：Larghetto

ホ長調、8分の6拍子。三部形式。この楽章では、「ドルチェ・モルト・エスプレッシーヴォ」（柔らかく、非常に表情豊かに）という指示が付された、美しい主題が奏でられます。中間部はこれとは対照的に、付点リズムが支配的な、やや興奮した様子を見せる音楽となります。

第3楽章：Scherzo: Vivace

イ短調、4分の3拍子。スケルツォ楽章です。ドヴォルザークの作品によく見られる、一種のクロスリズム（異なる拍子感が同時に存在するような効果）が用いられています。スケルツォ主部では、主に第2ヴァイオリンによって特徴的な主題が提示されます。トリオはイ長調に転じ、それまでのクロスリズムからは離れて、ポコ・メノ・モッソ（それまでより少し遅く）のテンポで新しい旋律が歌い上げられます。

第4楽章：Tema con variazioni: Poco adagio

ハ長調、4分の2拍子。主題と10の短い変奏からなる楽章です。楽譜上はハ長調で書かれていますが、実際に奏でられる音楽はハ短調の響きを帯びて始まり、徐々にハ長調へと解決していく特徴を持っています。まず主題が提示された後、次々と短い変奏が展開されます。それぞれの変奏は、ポコ・アダージョで始まった最初のテンポが途中で何度か変化するように、個々に異なるリズムや音量が付与されており、多様な色彩感を示します。特に、モルト・アレグロ（非常に速く）となった最後の2つの変奏は、簡素かつ急速なリズムで全曲を締めくくります。

この三重奏曲は、特定の奏者のために書かれたという私的な背景を持ちながらも、ドヴォルザークらしい旋律美と巧みな作曲技法が光る作品であり、通常の編成とは異なる響きの魅力を備えています。

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