弦楽三重奏曲第3番 (ベートーヴェン)

概要

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが作曲した弦楽三重奏曲第3番ニ長調 作品9-2は、彼の初期の創作活動の円熟期にあたる1798年頃に完成したと考えられている楽曲です。この作品は、同時期に書かれたピアノソナタ集作品10（第5番、第6番、第7番）などと並行して作曲され、作品9として出版された三つの弦楽三重奏曲の一つを成しています。これら作品9の三重奏曲は、全てが四つの楽章を持つ本格的な構成を採用しており、その形式や音楽的な語法には、当時の最新の音楽潮流であったフランツ・ヨーゼフ・ハイドンの交響曲からの影響が顕著に見られます。ベートーヴェンはこれらの作品において、弦楽三重奏という編成の可能性を追求し、初期の作品群の中でも傑出した完成度を示しています。特に本作は、同種の形式における代表的な地位を確立する優れた出来栄えですが、演奏には楽器間の緊密な連携に加え、正確なボウイングやピッチコントロールが要求されるため、技術的に高い難易度を持つ楽曲としても認識されています。

本作の楽譜は1798年に出版されました。この楽譜は、当時ベートーヴェンの重要なパトロンの一人であったヨハン・ゲオルク・フォン・ブロウネ＝カミュ伯爵に献呈されています。アイルランド系の出自を持つブロウネ伯爵は、ロシアのエカチェリーナ2世に仕えることで莫大な財産を築きましたが、後にその財産を失った人物として伝えられています。

楽曲構成

この三重奏曲は、古典的なソナタの形式に基づいた全四楽章で構成されています。全曲の演奏時間は約23分です。

第1楽章 Allegretto / ニ長調 / 2/4拍子

楽章はヴァイオリンが提示する穏やかな主題によって静かに幕を開けます。あたかも音楽が既に始まっていたかのような、印象的な開始方です。力強く提示される経過主題を経て、楽曲の勢いが増し、続いて現れるのは抒情的な性格を帯びた第二主題です。提示部は簡潔な結びで閉じられ、古典派の慣習に従い反復されます。展開部では、まず冒頭の主題が丁寧に扱われ、その後半では第二主題が対位法的な技法を用いて展開されます。再現部への橋渡しでは、チェロが巧みにその高音域を駆使し、最初の主題へと戻ります。楽章の最後には色彩豊かなコーダが加えられ、明るく華やかな響きで締めくくられます。

第2楽章 Andante quasi allegretto / ニ短調 / 6/8拍子

この楽章は、どことなく遊び心を感じさせる特徴的な主題によって始まります。続いて提示される第二の主題は、ヴィオラのアルペッジョとチェロのピッツィカートによる伴奏の上に奏でられます。ヴィオラが同じ音型を維持する一方で、ヴァイオリンとチェロは役割を交替しながら主題を歌い進めます。提示された二つの主題は、その後に形を変えて再現されます。短いコーダが続き、楽章は静かに、瞑想的な雰囲気の中で閉じられます。

第3楽章 Menuetto: Allegro / ニ長調 / 3/4拍子

形式としてはメヌエットとされていますが、指示された速いテンポと、中間部が「トリオ」と明確に区分されていることから、スケルツォ楽章に近い性格を持っています。メヌエット部分は、明確な特徴を持つ主題で開始されます。トリオ部分では、ヴァイオリンが非旋律的なスタッカートの音型を提示し、それをチェロが繰り返します。トリオは全体を通して弱音を保ったまま演奏され、終結するとメヌエット・ダ・カーポの指示に従い、最初のメヌエット部分が再び演奏されて楽章を終えます。

第4楽章 Rondo: Allegro / ニ長調 / 2/2拍子

終楽章はロンド形式で書かれています。中心となるロンド主題は、チェロによって提示されます。この主題は、簡素でありながらも陽気で快活な旋律です。これに対比される副主題は、勢いのある楽想としてヴァイオリンに現れます。ロンド主題の再現に至るまで、様々な性格のエピソードが展開されます。最初のロンド主題の再現は再びチェロによって行われ、この主題がそのまま展開へと移行します。展開が終息した後、三度目のロンド主題の再現がチェロによって行われ、続いて副主題も再現されます。さらに華麗な主題の展開が挿入された後、最後にはヴァイオリンがロンド主題を回想し、全曲が喜びに満ちた雰囲気の中で堂々と幕を閉じます。

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