弦楽三重奏曲第4番 (ベートーヴェン)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが1797年から1798年にかけて作曲した「弦楽三重奏曲第4番 ハ短調 作品9-3」は、彼の初期における重要な室内楽作品群の一つです。本作は、同作品番号を持つ他の2曲、すなわち第2番 ニ長調 作品9-2、第3番 ト長調 作品9-1と並行して書かれ、1798年の春までには完成に至ったと考えられています。
この三重奏曲は、ウィーンの出版業者ヨハン・トレークによって版権が取得されましたが、トレークは楽器ごとのパート譜を販売するにとどまり、楽曲全体の総譜は出版されませんでした。総譜が出回らない状況は長く続き、1846年から翌年にかけて版権が別の出版社シュタイナーに移譲された後も、その状況に大きな変化はなかったようです。このような出版状況により、本作が後世の作曲家や音楽界に与えた影響は限定的なものとなりました。
作品は、ベートーヴェンの重要なパトロンの一人であったロシア軍の将校、ヨハン・ゲオルク・フォン・ブロウネ＝カミュ伯爵に献呈されました。ベートーヴェンはブロウネ伯爵夫妻に多くの作品を捧げており、伯爵夫人への献呈の返礼として馬を贈られたというエピソードも残されています。本作の献呈にあたっては、ベートーヴェンが自身の「楽才、その最良の作品の主たるパトロン」と称える献辞（フランス語で au premier Mécène de sa Muse, la meilleure de ses oeuvres）が添えられています。
作品全体を通してハ短調という調性が採用されており、作品9を構成する3曲の中でも特に劇的な性格を持つとしばしば評されます。確かに楽曲の雰囲気は暗く、密度が高い表現が見られますが、当時の短調作品が自然に伴う性質を超越するほどの強い劇的な要素があるかというと、必ずしもそうとは言い切れないかもしれません。興味深いことに、ベートーヴェン自身は、作品9の中では第1曲である弦楽三重奏曲第2番を最も優れた出来栄えだと考えていたと伝えられています。
この三重奏曲は全4楽章で構成されており、一般的な演奏時間は20分から25分程度です。
第1楽章：Allegro con spirito 6/8拍子、ハ短調。ソナタ形式と考えられます。冒頭、3つの楽器がユニゾンで提示する4つの音符が重要な動機となり、楽章全体にわたって顔を出します。第1主題はこの動機から展開されます。続く第2主題は、ヴァイオリンからヴィオラ、そしてチェロへと歌い継がれていきます。提示部は繰り返しの指示があり、短いコーダで締めくくられます。展開部では、冒頭の4音動機が活用され、楽器間で様々な役割が交換されながら進行します。展開部の後半では再びこの動機が印象的に示され、ヴィオラとチェロのユニゾンによって再現部へと自然に導かれます。再現部では主題の形が提示部から変化しており、ここでも繰り返しが指示されています。後半の繰り返しを終えるとコーダに入り、冒頭の動機を用いて楽章全体が力強く閉じられます。
第2楽章：Adagio con espressione 4/4拍子、ハ長調。緩徐楽章です。休符を挟んだ柔和な和音による穏やかな主題で始まります。ヴァイオリンの上昇音型を経て、穏やかながらもどこか悲しみを帯びたような、別の主題が現れます。展開部では、最初の主題が変ホ長調で現れ、付点リズムの伴奏を得て展開されます。その後は最初の二つの主題が再現され、静かで穏やかな結尾によって楽章は閉じられます。
第3楽章：Scherzo: Allegro molto e vivace 6/8拍子、ハ短調。活気あふれるスケルツォ楽章です。冒頭から勢いのある主題が提示され、スケルツォ部は前後半がそれぞれ繰り返されます。簡潔な接続句を経て、ハ長調のトリオに入ります。トリオでは、主題が楽器間で巧みに受け渡されていきます。トリオもスケルツォ部と同様に前後半が繰り返されます。その後、再びスケルツォが回帰しますが、ここは新たに記譜されており、次第に音量を落とし、弱音でひっそりと終わります。
第4楽章：Finale: Presto 2/2拍子、ハ短調。ソナタ形式による終楽章です。三連符による特徴的なリズムを持ち、忙しなくも推進力のある第1主題が冒頭から提示されます。対照的に、第2主題はより歌謡的で流れるような性格を持っています。トレモロを伴う結尾句によって提示部がまとめられ、繰り返しの指示があります。展開部では、主題が遊び心のあるように扱われ、時には不協和音も響きます。不協和音を経て再現部に入り、第1主題、第2主題が順に再現されますが、提示部からの変更が多く見られます。楽曲は最後に音力を失っていき、静かに幕を下ろします。
この作品は、ベートーヴェンが弦楽四重奏曲という形式に向かう以前に、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという最小限の編成でいかに豊かな音楽を構築できるかを探求した成果の一つと言えるでしょう。当時の出版上の制約から広く知られる機会は限定されたものの、その緻密な構成と表現力は、作曲家初期の才能を示す重要な作品です。
この三重奏曲は、ウィーンの出版業者ヨハン・トレークによって版権が取得されましたが、トレークは楽器ごとのパート譜を販売するにとどまり、楽曲全体の総譜は出版されませんでした。総譜が出回らない状況は長く続き、1846年から翌年にかけて版権が別の出版社シュタイナーに移譲された後も、その状況に大きな変化はなかったようです。このような出版状況により、本作が後世の作曲家や音楽界に与えた影響は限定的なものとなりました。
作品は、ベートーヴェンの重要なパトロンの一人であったロシア軍の将校、ヨハン・ゲオルク・フォン・ブロウネ＝カミュ伯爵に献呈されました。ベートーヴェンはブロウネ伯爵夫妻に多くの作品を捧げており、伯爵夫人への献呈の返礼として馬を贈られたというエピソードも残されています。本作の献呈にあたっては、ベートーヴェンが自身の「楽才、その最良の作品の主たるパトロン」と称える献辞（フランス語で au premier Mécène de sa Muse, la meilleure de ses oeuvres）が添えられています。
作品全体を通してハ短調という調性が採用されており、作品9を構成する3曲の中でも特に劇的な性格を持つとしばしば評されます。確かに楽曲の雰囲気は暗く、密度が高い表現が見られますが、当時の短調作品が自然に伴う性質を超越するほどの強い劇的な要素があるかというと、必ずしもそうとは言い切れないかもしれません。興味深いことに、ベートーヴェン自身は、作品9の中では第1曲である弦楽三重奏曲第2番を最も優れた出来栄えだと考えていたと伝えられています。
この三重奏曲は全4楽章で構成されており、一般的な演奏時間は20分から25分程度です。
第1楽章：Allegro con spirito 6/8拍子、ハ短調。ソナタ形式と考えられます。冒頭、3つの楽器がユニゾンで提示する4つの音符が重要な動機となり、楽章全体にわたって顔を出します。第1主題はこの動機から展開されます。続く第2主題は、ヴァイオリンからヴィオラ、そしてチェロへと歌い継がれていきます。提示部は繰り返しの指示があり、短いコーダで締めくくられます。展開部では、冒頭の4音動機が活用され、楽器間で様々な役割が交換されながら進行します。展開部の後半では再びこの動機が印象的に示され、ヴィオラとチェロのユニゾンによって再現部へと自然に導かれます。再現部では主題の形が提示部から変化しており、ここでも繰り返しが指示されています。後半の繰り返しを終えるとコーダに入り、冒頭の動機を用いて楽章全体が力強く閉じられます。
第2楽章：Adagio con espressione 4/4拍子、ハ長調。緩徐楽章です。休符を挟んだ柔和な和音による穏やかな主題で始まります。ヴァイオリンの上昇音型を経て、穏やかながらもどこか悲しみを帯びたような、別の主題が現れます。展開部では、最初の主題が変ホ長調で現れ、付点リズムの伴奏を得て展開されます。その後は最初の二つの主題が再現され、静かで穏やかな結尾によって楽章は閉じられます。
第3楽章：Scherzo: Allegro molto e vivace 6/8拍子、ハ短調。活気あふれるスケルツォ楽章です。冒頭から勢いのある主題が提示され、スケルツォ部は前後半がそれぞれ繰り返されます。簡潔な接続句を経て、ハ長調のトリオに入ります。トリオでは、主題が楽器間で巧みに受け渡されていきます。トリオもスケルツォ部と同様に前後半が繰り返されます。その後、再びスケルツォが回帰しますが、ここは新たに記譜されており、次第に音量を落とし、弱音でひっそりと終わります。
第4楽章：Finale: Presto 2/2拍子、ハ短調。ソナタ形式による終楽章です。三連符による特徴的なリズムを持ち、忙しなくも推進力のある第1主題が冒頭から提示されます。対照的に、第2主題はより歌謡的で流れるような性格を持っています。トレモロを伴う結尾句によって提示部がまとめられ、繰り返しの指示があります。展開部では、主題が遊び心のあるように扱われ、時には不協和音も響きます。不協和音を経て再現部に入り、第1主題、第2主題が順に再現されますが、提示部からの変更が多く見られます。楽曲は最後に音力を失っていき、静かに幕を下ろします。
この作品は、ベートーヴェンが弦楽四重奏曲という形式に向かう以前に、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという最小限の編成でいかに豊かな音楽を構築できるかを探求した成果の一つと言えるでしょう。当時の出版上の制約から広く知られる機会は限定されたものの、その緻密な構成と表現力は、作曲家初期の才能を示す重要な作品です。
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