弦楽四重奏曲第1番 (ブラームス)

ヨハネス・ブラームスの作曲した弦楽四重奏曲第1番ハ短調 作品51-1は、彼がこのジャンルにおいて最初に世に問うた記念碑的な作品です。1873年、同じく弦楽四重奏曲第2番イ短調 作品51-2と時を同じくして発表されました。

これらの初期の弦楽四重奏曲は、ブラームスの親友であり、著名な外科医であるとともに熱心なアマチュア音楽家でもあったテオドール・ビルロートに献呈されています。一方で、楽曲自体の構成や細部に関する音楽上の助言については、長年の友人であり、優れたヴァイオリニストとして知られるヨーゼフ・ヨアヒムから多くを得ていたことが知られています。

ブラームスという作曲家は、自身の作品に対して極めて厳格な自己批判を行う完璧主義者として知られていました。そのため、作品の完成から発表に至るまで、非常に慎重な姿勢を貫きました。例えば、彼の交響曲第1番が完成まで20年以上の歳月を要したことはよく知られていますが、弦楽四重奏曲においてもその傾向は同様でした。今回発表された最初の2曲についても、構想から完成までには少なくとも8年の歳月を費やしたとされています。さらに驚くべきことに、これらの曲を発表する以前にも、20曲を超える弦楽四重奏曲の習作が書かれては破棄されていたと言われています。

室内楽曲を数多く作曲したブラームスですが、弦楽四重奏曲に関してはわずか3曲しか残されていません。最初の2曲を発表したわずか2年後に第3番作品67を発表して以降、彼はこの編成のための新たな作品を書きませんでした。この数の少なさの背景には、先人ベートーヴェンの偉大な16曲の弦楽四重奏曲に対する畏敬の念と、そこからくる重圧があったことは否めません。ブラームス自身、このジャンルにおいては特別な困難を感じていたようです。

ピアノを含む室内楽曲や、比較的若い頃から筆が進んだ弦楽六重奏曲や弦楽五重奏曲（それぞれ2曲ずつ作曲しています）に比べると、弦楽四重奏曲の3曲は、聴く人によってはやや地味な印象を受けるかもしれません。しかしながら、これらの作品は室内楽の大家であるブラームスが生み出しただけに、いずれも非常に完成度の高い佳作揃いです。特にロマン派の時代における弦楽四重奏曲として、確固たる、そして重要な位置を占めていることは間違いありません。

弦楽四重奏曲第1番は、同じくハ短調で作曲され、この曲の3年後に完成した交響曲第1番と同様に、劇的で力強い構成を持っています。全曲の演奏時間は概ね30分ほどです。

楽曲は以下の4つの楽章で構成されています。

第1楽章：Allegro。ハ短調で開始され、力強くハ長調で閉じられます。
第2楽章：Romanze: Poco Adagio。変イ長調による、穏やかで表情豊かな緩徐楽章です。
第3楽章：Allegretto molto moderato e comodo。ヘ短調で始まり、軽快ながらも落ち着いた雰囲気でヘ長調へと移ります。
第4楽章：Allegro。再びハ短調に戻り、熱気に満ちたフィナーレを飾ります。

この作品は、標準的な弦楽四重奏の編成、すなわち第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの4つの楽器のために書かれています。

ブラームスが自身の内なる要求に厳しく向き合い、長い年月をかけて生み出したこの弦楽四重奏曲第1番は、彼の室内楽作品群の中でも特に、その創作の苦闘と、それを乗り越えた末に到達した芸術性の高さを物語る作品と言えるでしょう。

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