テオドール・ビルロート

クリスティアン・アルベルト・テオドール・ビルロート

クリスティアン・アルベルト・テオドール・ビルロート（Christian Albert Theodor Billroth, 1829年4月26日 - 1894年2月6日）は、19世紀を代表するドイツ出身の外科医です。彼は、胃癌切除手術を世界で初めて成功させたことで知られています。また、作曲家ヨハネス・ブラームスとの親友としても有名で、音楽への深い造詣と才能も持ち合わせていました。

生涯

ビルロートは、北ドイツのバルト海に面したリューゲン島ベルゲンで生まれました。グライフスヴァルト大学とゲッティンゲン大学で医学を学び、1851年にはベルリン大学（シャリテー）で著名な外科医ベルンハルト・フォン・ランゲンベックの助手となりました。その後、1860年にはチューリッヒ大学医学部外科教授、1867年にはウィーン大学医学部外科教授に就任し、外科医としてのキャリアを築きました。

胃癌手術の成功

1881年1月29日、ビルロートは43歳の胃癌患者に対して手術を執刀しました。癌の進行は早く、リンパ節への転移も見られましたが、患者は手術後、経口摂取できるまでに回復しました。この手術で用いられた残胃と十二指腸の吻合法は、「ビルロートI法」として知られ、現在も広く用いられています。さらに、彼は十二指腸の断端を閉鎖し、残胃と空腸を吻合する「ビルロートII法」も考案しました。ビルロートの成功により、ヨーロッパ各地で胃切除手術が行われるようになり、これらの術式は現代外科手術の基礎となっています。

1894年2月、ビルロートは静養先のクロアチア・オパティヤで客死しました。

ブラームスとの親交

ビルロートは幼少期からピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラに親しみ、外科医として多忙な日々を送る傍ら、音楽会に出席したり、室内楽を楽しんだりしていました。また、音楽評論や室内楽曲、歌曲の作曲も手がけていましたが、これらの作品は現存していません。

チューリヒ時代には、演奏会のために当地を訪れたブラームスと出会い、親交を深めました。ブラームスは、自身の作品をビルロートに批評してもらい、二人で試演することもあったといいます。ブラームスの交響曲第2番については、ビルロートが「（作曲地の）ペルチャッハは、なんと美しいところだろう」と述べています。また、弦楽四重奏曲第1番、第2番は、当初ヨーゼフ・ヨアヒムに捧げられる予定でしたが、ビルロートに献呈されました。これは、当時ヨアヒムとの関係が悪化していたためと考えられています。

1878年には、ビルロートはブラームスと共にイタリア旅行をしました。その後も複数回イタリア旅行を共にし、外国語に堪能なビルロートは、案内役を務めたとされています。

1887年、ビルロートは肺炎で一時重体に陥りました。この時、ブラームスに遺言めいた謝辞を送るほどでした。回復したものの、心不全が残り体調はすぐれず、この頃からブラームスとの関係も冷え始めたようです。1893年末、ビルロートは民謡の研究中にブラームスに意見を求めましたが、ブラームスの皮肉な返事が、ビルロートの死の20日前に届きました。ブラームスは、ビルロートの葬儀への出席を許されず、街頭で葬列を見送ったといいます。

晩年の悲劇

ビルロートの死後、ブラームスはビルロートの歌曲の出版を提案しましたが、楽譜を修正したことで、ビルロート夫人の怒りを買い、出版は実現しませんでした。ビルロートの作品は、世に出ることなく失われてしまったのです。

ビルロートの死から2年後、ブラームスはビルロート夫人を訪ね、孫と遊ぶなどして過ごしました。しかし、この時ブラームスはすでに肝臓癌を患っており、翌1897年に亡くなりました。

ビルロートに師事した日本人

順天堂の3代目堂主となった佐藤進は、ビルロートに師事し、アジア人で初めてドイツの医学博士号を取得しました。また、橋本綱常、難波一もビルロートの指導を受けています。

ビルロートは、外科医としての偉大な業績に加えて、音楽家としての才能、そしてブラームスとの友情を通して、後世に大きな影響を与えました。

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