弦楽四重奏曲第18番 (モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって1785年に生み出された弦楽四重奏曲第18番 イ長調 K. 464は、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンへの献呈を意図した一連の作品群、通称『ハイドン・セット』全6曲のうち、5番目に位置する楽曲です。この作品は、作曲者自身の作品目録によれば、1785年1月10日にウィーンで完成を迎えたと記されています。

『ハイドン・セット』の中でも、この第18番は規模の点において最も大きく、モーツァルトがこの作品に寄せた特別な思い入れの深さがうかがえます。実際に、現代に至るまで多くのモーツァルト研究家、音楽学者、そして演奏家たちが、この楽曲をモーツァルトが遺した弦楽四重奏曲群における最高傑作の一つとして高く評価しています。

音楽学者のクリーグズマンは、この作品を「音楽上の職人芸の最も驚くべき例」と称賛し、さらに「作品の殆ど1小節ごとに知性の輝きを見せるほど作曲技術が洗練されてきた」とその技術的な完成度の高さを指摘しています。また、後世の偉大な作曲家アルノルト・シェーンベルクは、その著書『作曲の基礎技法』において、この作品の第2楽章であるメヌエットを極めて特徴的な例として取り上げ、楽譜を引用しながらモティーフの扱いの妙技を称賛しました。

さらに、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが自身の初期の弦楽四重奏曲集である作品18を作曲する際に、この作品を熱心に研究したことはよく知られており、特に終楽章を入念に書き写したという逸話が伝えられています。これは、後進の作曲家にとってさえ、この作品がいかに重要な規範となり得る存在であったかを示唆しています。

楽曲は全4楽章で構成され、演奏時間はおよそ30分から35分程度です。

第1楽章：アレグロ。イ長調、4分の3拍子で、ソナタ形式によって書かれています。

第2楽章：メヌエット - トリオ。イ長調からトリオではホ長調となり、4分の3拍子です。この楽章のメヌエットは、モーツァルトの対位法的技法の到達点の一つと見なされています。ハイドンの交響曲第23番のメヌエット（カノン形式）に触発されたモーツァルトは、カッサシオン第1番K.63のメヌエットで同様の試みを行いましたが、本作のメヌエットにおいて、対位法的な書法が最も洗練された形で実現されています。前述のシェーンベルクが特に着目したのも、この楽章の構造とモティーフ展開でした。

第3楽章：アンダンテ。ニ長調、4分の2拍子で、変奏曲形式です。主題と6つの変奏から成り立っており、第4変奏ではニ短調に転じるなど、豊かな表情の変化を見せます。

第4楽章：アレグロ。イ長調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）によるソナタ形式の終楽章です。初版の楽譜ではテンポ指定が「アレグロ・ノン・トロッポ」（速すぎず）となっていました。この楽章こそが、ベートーヴェンが特に研究し、書き写したとされる部分であり、その精緻な構成と力強い展開が特徴です。

全体を通して、この弦楽四重奏曲第18番K.464は、モーツァルトが対位法を含む作曲技法を極限まで磨き上げ、古典派の様式の中で深遠かつ知的な音楽表現を追求した結実として、現代においても多くの音楽愛好家に感動を与え続けています。

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