弦楽四重奏曲第3番 (シューベルト)

弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 D 36

フランツ・シューベルトが1812年から1813年にかけて作曲した弦楽四重奏曲です。この作品は、彼の初期の弦楽四重奏曲シリーズの中でも特に重要な位置を占めています。

作曲の背景

本作の作曲に着手したのは1812年の11月19日と記録されており、翌1813年の2月21日には完成を見ています。この曲が具体的にどのような動機で書かれたのかは、現在のところ明確には判明していません。しかしながら、初期の作品である第1番（D 18）や第2番（D 32）と比較すると、本作では作曲技法や形式面において飛躍的な進歩が見られます。これは、シューベルトが先行世代の偉大な作曲家、特にヨーゼフ・ハイドンの弦楽四重奏曲やルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの交響曲を熱心に研究し、その語法や構造を吸収しようと試みた成果が色濃く反映されているためと考えられています。例えば、第1楽章では、ハイドンの弦楽四重奏曲第61番（旧第76番）として知られる「五度」を参考にしていることが指摘されており、こうした特定の作品からの影響だけでなく、楽曲全体にハイドン的な様式が散見されるのが本作の特徴です。

楽曲の構成

全体は4つの楽章で構成されており、演奏時間はおよそ25分程度です。シューベルトは、古典派の典型的な構成を踏襲しつつも、独自の工夫を凝らしています。各楽章間の調性は全体として統一性を保っていますが、古典派の多くの弦楽四重奏曲でメヌエットやスケルツォ楽章に主調が置かれるのに対し、本作では例外的に第2楽章が主調である変ロ長調に設定されています。また、形式上の関連性として、第1楽章と第3楽章の冒頭主題が同一のリズムモチーフを共有している点も特筆されます。

各楽章の詳細は以下の通りです。

第1楽章：アレグロ

変ロ長調、4分の4拍子で書かれ、ソナタ形式によります。活気に満ちた楽章で、展開部では対位法的な書法が効果的に用いられ、主題が多声的に展開されていく様を聴くことができます。

第2楽章：アンダンテ

変ロ長調、8分の6拍子。自由な三部形式で構成されており、穏やかで叙情的な雰囲気を持つ楽章です。

第3楽章：メヌエット：アレグロ・マ・ノン・トロッポ - トリオ

ニ長調（メヌエット部）から変ロ長調（トリオ部）へと調性が変化し、4分の3拍子です。複合三部形式がとられています。楽章名はメヌエットですが、その音楽的な性格はスケルツォに近い快活さを持ち合わせています。トリオ部分は、ベートーヴェンの交響曲第1番ハ長調 作品21の第3楽章との近似性が感じられる、伸びやかな主題が特徴です。

第4楽章：アレグレット

変ロ長調、4分の2拍子。ソナタ形式によって書かれていますが、その主題は舞曲風であり、形式的にもロンドに近い性格を持っています。軽快で明るい楽章が、作品を締めくくります。

初期作品ながらも、シューベルトの作曲家としての才能と、古典派の巨匠たちから学ぼうとする真摯な姿勢がうかがえる、聴き応えのある作品です。

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国際楽譜ライブラリープロジェクト (IMSLP) では、この作品の楽譜が公開されています。詳細は外部リンクをご参照ください。

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