弦楽四重奏曲第4番 (モーツァルト)

弦楽四重奏曲第4番 ハ長調 K. 157

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによる「弦楽四重奏曲第4番 ハ長調 K. 157」は、彼の初期における重要な室内楽作品群である『ミラノ四重奏曲』全6曲の中の3番目に位置づけられます。そのため、『ミラノ四重奏曲第3番』という通称でも知られています。この作品は、後の成熟期に見られる複雑な構成や深い表現とは異なりますが、若きモーツァルトの楽想の豊かさと形式への習熟を示しており、その後の発展を予感させる魅力に満ちています。

作曲背景

この四重奏曲は、モーツァルトがオペラ『ルーチョ・シッラ』（K. 135）の初演を控えてイタリアのミラノに滞在していた時期、具体的には1772年の終わりから翌1773年の初めにかけて作曲されました。同時期に書かれた他の『ミラノ四重奏曲』と同様、イタリアの音楽様式、特に当時流行していたシンフォニアやオペラの序曲に見られる三楽章構成の影響を強く受けています。これは、当時の四重奏曲がまだ確固たる形式を確立しておらず、多様な試みがなされていた時代背景を反映しています。

楽曲の特徴

作品全体は、急速な楽章に緩徐楽章が挟まれ、再び急速な終楽章で閉じられるという、三楽章構成を採っています。これは、当時のイタリアで好まれた形式であり、全体的に明るく軽快な雰囲気が支配的です。全曲の演奏時間は約11分程度と比較的小規模ながら、各楽章にはモーツァルトらしい旋律美と構成の妙が光ります。

特に注目すべきは、同時期に作曲された他の『ミラノ四重奏曲』中の何曲か（K. 156、K. 158、K. 159）と同様に、第2楽章が短調で書かれている点です。これにより、ハ長調による両端楽章の明快さに対し、中間楽章で情感豊かな、やや影のある表現が導入され、作品に深みとコントラストを与えています。

楽曲構成

全三楽章からなり、各楽章は以下のような構成をとっています。

第1楽章：アレグロ

ハ長調、4分の4拍子。ソナタ形式で書かれています。冒頭から明るく溌剌とした主題が提示され、ハ長調らしい輝きに満ちた楽想が展開されます。対照的な第2主題も魅力的で、初期作品ながらも形式的なまとまりが良い楽章です。

第2楽章：アンダンテ

ハ短調、8分の3拍子。二部形式（または変奏曲形式とされることも）で書かれています。この楽章は、ハ短調という調性により、 preceding および following の明るい楽章とは一線を画す、内省的で多感な雰囲気を湛えています。イタリア風の軽やかさの中に現れる、若き作曲家の繊細な感情表現が印象的です。

第3楽章：プレスト

ハ長調、4分の2拍子。ロンド形式。極めて軽快で活気に満ちた終楽章です。ロンド主題が繰り返し現れ、聴き手を楽しい気分へと誘います。急速なテンポとリズミカルな主題が特徴であり、作品全体を明るく華やかに締めくくります。記譜上の4分の2拍子は、実質的には2分の2拍子に近い感覚で演奏されることが多いでしょう。

この作品は、後の六曲一組の『ハイドン・セット』のような重厚さや複雑さはありませんが、初期のモーツァルトが様々な様式を吸収し、自らの音楽語法を確立していく過程を知る上で貴重な作品であり、その瑞々しい魅力によって現在でも親しまれています。

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