弦楽四重奏曲第7番 (モーツァルト)

モーツァルト：弦楽四重奏曲第7番 変ホ長調 K. 160 (159a)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトによって作曲されたこの弦楽四重奏曲第7番 変ホ長調 K. 160 (K. 159a) は、彼の初期の四重奏曲シリーズとして知られる「ミラノ四重奏曲」の6曲目、すなわち最終曲に位置づけられています。そのため、「ミラノ四重奏曲第6番」という通称でも親しまれています。

作曲背景と位置づけ

この作品は、若きモーツァルトが1773年の初頭に、主にイタリアのミラノ、そして故郷であるザルツブルクにおいて作曲したと考えられています。父レオポルトとともにイタリア旅行を行っていた時期に制作された「ミラノ四重奏曲」を締めくくる楽曲であり、イタリアで吸収したオペラやシンフォニアの影響、そしてザルツブルクに戻ってからの室内楽様式への模索が反映された興味深い過渡期の作品と言えます。

楽曲構成と特徴

全3楽章で構成されており、演奏時間は約10分と比較的コンパクトにまとめられています。楽章の配列は、急速楽章―緩徐楽章―急速楽章という典型的なイタリア式のシンフォニアやセレナードの形式を踏襲しています。

楽曲全体の雰囲気としては、初期の作品らしい瑞々しさと、異なる土地で受けた音楽的影響が混在しています。特に第1楽章と第2楽章は、イタリア的な明快さや活気に満ちた楽想が特徴的です。一方、終楽章には、ザルツブルク時代の他の室内楽作品にも通じる、どこか内省的で、やや落ち着いた印象を与える楽想が見られます。この、開放的なイタリア様式と、より控えめなザルツブルク様式との対比が、本作品の個性となっています。

また、第1楽章の冒頭で提示される主題は、同時期に作曲された有名な『ディヴェルティメント ニ長調』（K. 136）の終楽章の主題と顕著な類似性を示しており、当時のモーツァルトが共有する音楽的アイデアを複数の作品で展開していた様子がうかがえます。

各楽章の詳細

各楽章の構成と形式は以下の通りです。

第1楽章：アレグロ
変ホ長調、4分の4拍子。ソナタ形式で書かれており、明るく活発な主題が提示され、展開されます。前述の通り、ディヴェルティメント K. 136との主題的な関連が指摘される楽章です。

第2楽章：ウン・ポコ・アダージョ
変イ長調、4分の3拍子。二部形式による緩徐楽章です。ゆったりとしたテンポで、美しい旋律が奏でられ、情感豊かな対話が展開されます。全体の中でも落ち着きと叙情性を持った楽章と言えます。

* 第3楽章：プレスト
変ホ長調、4分の2拍子。ソナタ形式。非常に速いテンポが指定された終楽章ですが、全体としてはやや地味な印象を与え、ザルツブルク時代のモーツァルトのスタイルを反映していると評されます。軽快ながらも洗練された筆致で締めくくられます。

この弦楽四重奏曲第7番は、「ミラノ四重奏曲」の総決算として、若きモーツァルトの作曲技法や楽想の変遷をたどる上で重要な位置を占める作品です。後の傑作四重奏曲群へと繋がる萌芽を随所に感じさせます。

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