張交絵

張交絵（はりまぜえ）は、江戸時代から明治時代にかけて制作された浮世絵の一様式です。その特徴は、一枚の錦絵の中に、様々な形や種類の絵を複数配置している点にあります。まるで、張交屏風のように、一枚の紙面に大小異なる区画を設け、それぞれの区画に異なる絵柄を描き組み合わせた、ユニークな構成が魅力です。

この様式は、張交屏風から着想を得て生まれたと考えられています。屏風絵のように、複数の絵柄を一枚の画面で楽しむことができる、趣向を凝らした表現方法と言えるでしょう。張交絵は、当時の人々に多様な視覚体験を提供しました。一枚の絵の中で、風景、人物、風俗、物語など、さまざまなテーマが展開され、見る者を飽きさせません。

張交絵の代表的な作家としては、歌川広重が挙げられます。広重は、その卓越した描写力と構成力により、数多くの張交絵を制作しました。彼の作品は、風景画を得意とする広重らしく、各地の名所や風物を巧みに組み合わせたものが多く見られます。例えば、「国尽張交図会」や「東海道五十三次張交絵」などは、その代表的な作品として知られています。これらの作品では、日本各地の風景や文化が、小さな画面の中に凝縮して描かれており、当時の人々の旅情を掻き立てたことでしょう。

また、張交絵には、複数の浮世絵師による合作も見られます。これは、それぞれの絵師が得意とする分野を持ち寄り、一枚の絵に多様な表現を盛り込むことを目的としたものと考えられます。合作の張交絵は、各絵師の個性が融合し、より豊かな表現を生み出しています。それぞれの絵師の作風の違いを比較しながら鑑賞することも、張交絵の楽しみ方の一つと言えるでしょう。

張交絵は、一枚の絵の中に複数の異なる絵柄を配置することで、視覚的な面白さを追求した浮世絵の様式です。そのユニークな構成は、当時の人々に新鮮な驚きと楽しみをもたらしました。現代の私たちも、張交絵を通して、江戸時代の人々の美意識や文化に触れることができるでしょう。

参考文献
吉田漱 『浮世絵の基礎知識』 雄山閣、1987年
稲垣進一編　『図説浮世絵入門』〈『ふくろうの本』〉 河出書房新社、1990年

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