張子明

張子明（ちょうしめい）は、生年不詳ながら、元末の混乱期に頭角を現した軍人です。彼は朱元璋に仕え、その麾下で領兵千戸という地位に就きました。その忠誠心と勇猛さは、数々の戦いで実証され、主君からの信頼も厚かったと伝えられています。

1363年、元朝の衰退に乗じて勢力を拡大していた陳友諒が、洪都を大軍で包囲しました。この時、洪都を守っていた朱文正は、事態を打開するため、張子明を応天府に派遣し、援軍を要請することにしました。

張子明は、敵の包囲網を突破するために、東湖の小さな漁船を使い、水関から密かに脱出するという危険な手段を選びました。彼は夜間に進み、昼間は休息するという方法で、約半月かけて応天府にたどり着きました。朱元璋に謁見した張子明は、陳友諒軍の兵力について、「兵力は確かに盛んですが、戦闘での死傷者が少なくなく、長江の水が涸れており、敵軍の巨大な軍船の動きが鈍くなっている」と分析しました。そして、援軍を送れば敵を打ち破ることができると進言しました。

朱元璋は、張子明の報告を聞き、洪都の将兵に対し、「一カ月間持ちこたえれば、自ら軍を率いて敵を討つ」と伝えました。張子明は、この朱元璋の言葉を携え、洪都へ帰る途中、湖口で陳友諒軍に捕えられてしまいました。陳友諒は、張子明に城内で降伏を呼びかけるよう強要しました。

張子明は、一旦は降伏を装い、城下まで連れて行かれました。しかし、彼はそこで「私は張大舎である。すでに主上（朱元璋）に謁見し、諸君には堅守が命じられた。救援は必ずやってくる」と大声で叫びました。この勇敢な行動は、敵兵の怒りを買い、複数の矛で突き刺され、壮絶な最期を遂げました。彼の死は、敵を大いに動揺させ、味方を鼓舞しました。

張子明の忠義と勇気を称え、後に忠節侯という諡号が贈られました。彼の名は、明朝の歴史書『明史』にも記され、その忠誠心は後世に語り継がれています。張子明の生涯は、激動の時代にあっても、信念を貫き、主君のために命を捧げた武将の鑑として、今もなお多くの人々に感銘を与えています。

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