張秋穀

張秋穀：日本に文人画の息吹を届けた清の画家

張秋穀（ちょうしゅうこく、生没年不詳）は、18世紀後半に日本に渡来した中国の画家です。名は初め昆（こん）、のちに莘（しん）と改め、字は秋谷、後に秋穀としました。露香、西冷釣徒、鋤雲館など数々の号も持っていました。浙江省杭州府仁和県出身と伝えられています。

幼少期から絵画に深い関心を抱き、元代の画家倪瓚（げいさん）や明代の呉鎮（ごちん）らの画風を独学で学びました。山水画、蘭竹図などを得意としたと推測されます。

天明6年（1786年）、日本へ渡来。秋谷の名で活動を始めました。天明8年（1788年）には、日本の文人画家である春木南湖（はるき なんこ）と出会い、画法や書法について交流を深めました。費晴湖（ひせいこ）も交えた筆談を通して、技法を伝授し合ったと記録されています。

帰国後、秋穀と名乗り、画風を大きく変化させたようです。渡来当初は水墨画、または淡彩画を主に手がけ、作品数も少なかったとされますが、帰国後は彩色花鳥画を多く制作するようになりました。

張秋穀は、中国の画家惲寿平（うんじゅへい）の画法である没骨法を日本に紹介した人物としても知られています。没骨法とは、輪郭線を描かずに、直接色を塗り重ねていく技法です。この技法は、日本の文人画家たちに大きな影響を与えました。

特に、渡辺崋山（わたなべ かざん）や椿椿山（つばき ちんざん）といった日本の著名な画家たちは、張秋穀の画風から多大な影響を受けたと考えられています。彼ら独特の画風形成に、張秋穀の存在は無視できない重要な要素となっているのです。

張秋穀の作品は、残念ながら現存する数が少ないため、全容を把握することは困難です。しかしながら、わずかに残された作品や、彼に関する記録から、彼が日本における文人画の発展に大きく貢献したことは明らかです。水墨画や淡彩画の繊細な描写、そして彩色花鳥画の鮮やかな色彩感覚は、日本の絵画史に新たな地平を切り開いたと言えるでしょう。

彼の生没年は不明な点も多く、更なる研究が必要ですが、限られた情報から、張秋穀が日本の美術界に与えた影響の大きさを垣間見ることができます。今後の研究により、彼の作品や生涯がより詳細に明らかになることが期待されます。

参考文献

図録「花と鳥たちのパラダイス-江戸時代長崎派の花鳥図-」神戸市立博物館　1993年
馬場強「張秋谷と張秋穀」（図録「長崎を訪れた中国人の絵画展」長崎県立美術館 1983年）
春木南湖『西遊日簿』
浅野梅堂『漱芳閣書画銘心録』

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