張載

張載：北宋の儒学者、その思想と影響

張載（ちょう さい、1020年 - 1077年）は、中国北宋時代の儒学者であり、字は子厚、横渠先生とも称されました。彼は宋学において、いわゆる「気の哲学」（唯物論）を創始したことで広く知られています。

生涯

張載は鳳翔府郿県横渠の出身です。38歳で進士に合格し、地方官を歴任した後、朝廷に召されましたが、王安石の新法に反対し帰郷。その後は読書と思索に没頭しました。再び朝廷に召されるも志を得ず、帰郷の途上で亡くなりました。

彼の「天地のために心を立て、生民のために道を立て、去聖のために絶学を継ぎ、万世のために太平を開く」という言葉は、彼の豪傑としての性質をよく表しています。若い頃は兵法を好みましたが、范仲淹のすすめで儒者に転じました。仏教や老荘思想に傾倒した時期もありましたが、程顥・程頤兄弟との出会いを経て、儒者としての自信を確立しました。

虎の皮に座って『易』を講義していた張載が、二程の『易』論に感銘を受け、虎皮を撤去し門人を二程に師事させたという逸話は、彼の謙虚な人となりを示すものです。

思想

張載の思想は、『易』や『中庸』に深く根ざしています。彼は万物の生成を陰陽二気の集散によって説明し、「太虚」をその本体としました。太虚は無形であり、気は有形ですが、これらは一体であり、「太虚即気」という関係にあると説きました。この気一元の哲学は、周敦頤の思想を発展させたものですが、「太虚」説は宋学の主流とはなりませんでした。

彼は人間性を「気質の性」と「天地の性」の両面から捉えることを提唱し、道徳の根源は「太虚＝天地の性」にあると説きました。そして、気質を浄化し、天地の性に帰ることを勧めました。「心が性と情を統べる」という彼の見解は、後の朱熹によって高く評価されています。張載はまた、個人修養と社会生活における「礼」の重要性を強調し、仏教や道教を排斥し、儒教の独立性を明確にしようと努めました。

主著としては、『正蒙』『西銘』『東銘』『経学理窟』『易説』などがあり、これらは『張氏全書』にまとめられています。

評価と影響

20世紀の中国においては、張載の創始した唯物論は、朱子学や陽明学と比較して高く評価される傾向にありました。ナショナリズムやイデオロギーを背景に、張載とその影響を受けた王夫之は、哲学史上の重要人物として扱われるようになりました。

もっとも、島田虔次は、哲学史の実態に即して考えれば、客観唯心論と主観唯心論の対立こそが宋学の中心であり、唯物論の系譜は相対的に重要性が低いと指摘しています。

張載の思想は、その死後も多くの人々に影響を与え続けました。特に、王陽明や大塩平八郎といった思想家たちは、彼の哲学から重要な示唆を得ています。

参考文献

島田虔次『朱子学と陽明学』岩波新書、1967年
山根三芳『正蒙』（明徳出版社）1970年

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