後方散乱X線検査装置

後方散乱X線検査装置とは

後方散乱X線検査装置は、X線の反射を利用した画像処理技術であり、特に空港などの保安検査における身体検査技術として利用されています。従来のX線検査装置が透過したX線の量を測定するのに対し、この装置は対象物から反射されたX線の量を測定します。これにより、衣服や薄い金属板の内部にある物体をより鮮明に捉えることが可能になります。

技術の仕組み

この装置は、X線のコンプトン効果を利用しています。具体的には、細く絞ったX線を検査対象物に照射し、反射してくるX線の強さを測定します。原子番号の小さい物質はX線を強く反射し、原子番号の大きい物質は吸収するため、反射X線の強弱を画像化することで、対象物の内部構造を可視化します。この技術により、従来の透過X線では難しかった有機物の検出が容易になり、特に爆薬や麻薬などの検査に有効です。また、透過X線と後方散乱X線を組み合わせることで、より詳細なカラー画像を生成することも可能です。

後方散乱X線検査装置の特徴

後方散乱X線検査装置の主な特徴は以下の通りです。

有機物の検出: 従来の透過X線では困難だった有機物の検出に優れており、爆薬や麻薬などの検査に適しています。
表面の可視化: 薄い物体（衣服や金属板）の内部にある物体の表面を捉えることができ、包装された物品の検査に有効です。
2次元画像: 一般的には2次元画像しか作成できませんが、両面を検査することで、より詳細な情報を得ることができます。

開発と導入

後方散乱X線検査装置の商業化に初めて成功したのは、スティーブン・スミス博士です。彼は1992年にSecure 1000全身スキャナを開発し、特許を取得してラピスキャン・システムズ社を設立しました。その後、いくつかの企業がこの分野に参入し、空港などに納入しています。

主なメーカーとしては、以下の企業が挙げられます。

アメリカン・サイエンス&エンジニアリング社 (商品名: Smartcheck)
ラピスキャン・システムズ (OSI Systems Inc.の子会社) (商品名: Secure 1000)
Tek84 (旧社名Spectrum San Diego Inc.) (商品名: Castscope)

これらの装置は、コンテナやトラックの高速検査にも利用され、船舶の検査にも応用できる可能性があります。

社会への影響と課題

後方散乱X線検査装置は、保安検査の強化に貢献していますが、プライバシーや健康への影響も指摘されています。特に、衣服を透過して身体の輪郭がわかる画像が得られるため、プライバシー侵害の懸念が強く、アメリカ自由人権協会（ACLU）などの団体から反対の声が上がっています。また、米国下院では主要手段としての使用を禁じる法案も可決されています。

健康面については、この装置からのX線照射量は胸部X線の600分の1程度とされており、健康への影響は小さいとされています。しかし、欧州委員会などの検討委員会からは、妊婦や子供への使用は避けるべきとの報告も出ています。

プライバシーに関する懸念

この装置によって得られる画像は、衣服を着たまま身体の細部が透けて見えるため、プライバシー侵害の懸念が非常に強いです。アメリカ自由人権協会（ACLU）などの団体は、この装置の使用に強く反対しており、アメリカ合衆国下院でも、この技術がプライバシーを侵害する可能性があるとして、主要手段としての使用を禁じる法案が可決されています。また、電子プライバシー情報センターは、装置の情報開示を求めてアメリカ国土安全保障省を提訴しています。

健康への影響

後方散乱X線検査装置からのX線照射量は非常に少なく、胸部X線の600分の1程度です。米国健康物理学会（HPS）は、1回の検査で約0.05マイクロシーベルトのX線照射を受けると報告しており、アメリカン・サイエンス・アンド・エンジニアリング社は0.09マイクロシーベルトと報告しています。米国標準局は、年間10マイクロシーベルトの照射を受けても生命に全く影響がなく、同じ検査装置からの照射は年間250マイクロシーベルトまでなら問題がないとしています。しかし、欧州委員会などからの検討委員会は、妊婦や子供への使用は避けるべきだと報告しています。

まとめ

後方散乱X線検査装置は、保安検査の分野で重要な役割を果たしていますが、プライバシーや健康への影響も考慮する必要がある技術です。今後の技術開発や運用方法の見直しによって、より安全かつ効果的な利用が期待されます。

参考文献

You are undie surveillance - UK considers using backscatter X-ray machines to scan the public.
American Science and Engineering - pioneers in the field.
University of Florida Research - High Resolution Scatter X-ray Imaging
Rapiscan Systems - Manufacturer of the SECURE 1000 People Screening System
Backscatter X-ray technology and risks
Dr. Steven W Smith / First Backscatter X-ray Security Device (Secure 1000)

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