御神酒頂戴式

栃木県益子町の奇祭「御神酒頂戴式」：歴史と儀式内容

栃木県芳賀郡益子町にある八坂神社では、毎年7月23日から25日にかけて開催される益子祇園祭において、独特の神事「御神酒頂戴式」が行われます。これは、江戸時代から伝わる伝統行事であり、当番町を引き継ぐ儀式として、7月24日の中日に執り行われます。

強飯習俗と歴史

「御神酒頂戴式」は、栃木県に多く見られる「強飯習俗」の一種です。強飯とは、酒や食事を強制的に大量に食べさせる風習のことで、その中でも「御神酒頂戴式」は本物の酒を大量に飲むことを強いる、稀有な神事として知られています。日光市輪王寺の「強飯式」と並ぶ、栃木県を代表する奇祭と言えるでしょう。

その起源は、宝永2年（1705年）の益子町の疫病流行に遡ります。疫病退散を祈願して牛頭天王を祭ったことが、益子祇園祭、そして「御神酒頂戴式」の始まりと言われています。明和3年（1766年）には、黒羽藩から益子町に酒が贈られたことが、神事の起源になったという説もあります。

かつては陰暦に基づいて祭事が行われ、初日には神酒が氏子一同に振る舞われ、当番引き継ぎには、一年を象徴する3升6合入りの大杯が使われていました。戦時中の酒不足で中断された時期もありましたが、それ以外は毎年続けられてきた伝統行事です。現在では、五穀豊穣、無病息災、家内安全を祈願して行われています。

1985年には「八坂神社御神酒頂戴式」として益子町指定無形民俗文化財に指定され、益子焼よりも有名だと評されるほど、古くから下野新聞にも掲載されるなど、益子町を代表する夏の祭事として広く知られてきました。しかし、2020年と2021年は新型コロナウイルス感染症の影響で中止となり、2022年は規模を縮小して再開されました。

儀式の内容

「御神酒頂戴式」は、当番町の家屋を会場として行われます。会場は、当番町の代表の自宅や公民館など、毎年異なります。儀式は女人禁制で、紅白の幕と注連縄で囲まれた空間で男性のみが参加します。ただし、しめ縄の外であれば女性も神事を見学できます。過去には、外国人陶芸家も参加した記録があります。

儀式には、神主、祭総大長、各町自治会長、当番町と翌年度の当番町の代表、他の町の氏子役員などが参加します。会場には、三方に載せられた大杯と、塩、土浦の煮干し、きゅうりの塩揉みなどの酒の肴が用意されます。

一番座敷：当番町と翌年度当番町の儀式

儀式は、当番町の祭総大長の司会で進められます。神主と自治会長の挨拶の後、若衆の太鼓の音とともに「一番座敷」が始まり、まずは今年度の当番町が「御神酒頂戴式」を行います。

3升6合5勺（約6.5リットル）の大杯に注がれた熱燗を、「いただきます」と挨拶した後、当番町の自治会長から順番に飲み始めます。途中から若衆も手伝いますが、大杯に一度触れた杯は飲み干すというルールがあります。そのため、両手を床につけ、大杯に顔を近づけて飲む光景も見られます。最後に残った酒を飲み干した代表者が「杯被り」を行い、「御馳走様でした」で今年度の儀式は終了します。

続いて、翌年度の当番町が同様の儀式を行います。ただし、翌年度の当番町は役員10名のみで、加勢なしに3杯の大杯の熱燗を飲み干さなければなりません。最初は厳かな雰囲気ですが、次第に宴会のような雰囲気になりながら、熱燗を飲み干していきます。

二番座敷、三番座敷

「一番座敷」の後、「二番座敷」「三番座敷」と続き、他の各町の役員にも熱燗が振る舞われます。こちらも一杯に三合入るお椀に注がれた熱燗を飲み干すという、大変な儀式です。

この大量の酒を飲むという、体を使った神事が、「御神酒頂戴式」が奇祭と呼ばれる所以となっています。

新型コロナウイルス感染症の影響

2020年と2021年は新型コロナウイルス感染症の影響で「御神酒頂戴式」は中止されましたが、2022年には規模を縮小して再開されました。現在も感染症対策のため、儀式は簡略化されています。

参考資料

『栃木県の強飯』栃木県教育委員会
バーナード・リーチ 著『バーナード・リーチ 日本絵日記 文庫版』
栃木県文化協会 著『栃木県芸術名鑑 2007 平成十九年版』
柏村祐司『栃木の祭り』
栃木県大百科事典刊行会 編『栃木県大百科事典』
益子町観光協会ホームページ

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