復古カトリック教会

復古カトリック教会（Altkatholische Kirche, Old Catholic Church）

復古カトリック教会は、19世紀後半にローマ・カトリック教会から分かれて成立したキリスト教の教派です。この分離は、主に1870年に開催された第1バチカン公会議において、教皇に関する重要な教義が定められたことに対する反対運動を契機としています。特に、教皇が信仰や道徳について公式に語る際に誤りがないとする「教皇不可謬説」や、全世界の教会の首長であるとする「教皇首位説」といった決定に多くの聖職者や信徒が異を唱えたことが、この教派の誕生につながりました。主にドイツ語圏（ドイツ、オーストリア、スイス）のカトリック教会から分離した人々によって組織されましたが、オランダのユトレヒトに古くから教皇の権威から独立したカトリックの伝統があったことも、その形成に影響を与えています。この教派やその思想は、「復古カトリック主義」とも呼ばれます。

歴史的経緯

「オールド・カトリック」という名称は、ローマ教皇の直接的な支配下にないカトリック教会を指す言葉として、オランダのユトレヒトにおいて1853年に初めて用いられました。ユトレヒトでは、18世紀に司教の叙階を巡ってローマ教皇庁と対立し、一部の聖職者が破門されるという出来事がありました。その流れを汲む教会に対して使われたのが始まりです。

より広範な復古カトリック教会の運動は、1870年の第1バチカン公会議で採択された教皇不可謬説に対する反発から本格化します。オーストリア、ドイツ、スイスなどヨーロッパ各地の多くのカトリック司教や司祭が、この教説を受け入れることを拒否し、ローマ・カトリック教会を離脱しました。彼らは、既に教皇庁から独立していたユトレヒトの教会の支持を得て、後に「ユトレヒト・ユニオン」と呼ばれる協力関係を結びます。1873年には、教皇不可謬説や教皇首位説を認めない独立した教会組織として、ドイツのコンスタンツにおいて復古カトリック教会が正式に発足しました。当時のローマ教皇ピウス9世は、回勅の中で復古カトリック教会を厳しく非難しています。

復古カトリック教会はその後、ヨーロッパ各地に広がります。1908年にはイングランドにも司教が派遣されました。これは、当時のローマ教皇レオ13世がイングランド国教会の聖職者の叙階は無効であると宣言したことを受け、国教会を離れる聖職者が復古カトリック教会に加わることを期待した動きでした。結果として国教会からの大規模な改宗は起こりませんでしたが、様々な地域における独立したカトリック教会運動の形成に影響を与えました。

教義と特徴

復古カトリック教会の教義は、聖書と「聖伝」を信仰の規範とする点でローマ・カトリック教会と共通しており、プロテスタント諸教会と比較するとローマ・カトリックに近い側面も持っています。しかし、聖伝として有効と見なす範囲を原則として8世紀以前のものに限定しており、それ以降にローマ教会で確立された教義や慣行には批判的な立場をとります。

具体的には、

教皇の教皇首位説および教皇不可謬説を否定する。
聖母マリアの無原罪懐胎を認めない。
司祭の独身制を義務付けない。
免償、聖人崇敬、特定の場所への巡礼などを否定または重視しない。
* 聖日における聖体拝領や特定の断食を義務としない。

といった点が、ローマ・カトリック教会との主要な相違点です。著名な指導者であったドイツの神学者、ヨハン・イグナツ・フォン・デリンガーは、教皇不可謬説などを歴史的、神学的に受け入れられないと公に表明したため、ローマ・カトリック教会から破門されました。

復古カトリック教会は聖書を読むことを奨励し、典礼において各国語の使用を認めています。教会制度は、国ごとにほぼ独立した組織を持ち、それぞれの司教が「国際復古カトリック司教協議会」（IBK）などの司教会議を通じて連携する形態をとっています。司教、司祭、助祭という三つの聖職位階は保持されています。

現代における復古カトリック教会では、女性の聖職位への叙階を巡る議論が進み、1980年代後半から意見の対立が見られるようになりました。1990年代以降、見解の相違がありつつも、多くの地域教会で女性司祭や女性助祭の叙階が実際に行われています。

他教派との関係

復古カトリック教会は、教皇の首位権を認めない点で共通する聖公会（アングリカン・コミュニオン）と、1932年以来「フル・コミュニオン」の関係にあります。これは、相互に聖餐を分かち合い、聖職者の按手（叙階）も相互に有効と認め合う、深い一致関係を示します。

ユトレヒト・ユニオンはヨーロッパを中心とした復古カトリック教会の主要な枠組みですが、現在では、英語圏のオールド・カトリック教会との間には相互陪餐関係がありません。また、スロバキアの復古カトリック教会はユトレヒト・ユニオンから離脱するなど、ユニオン内部の関係性も変化しています。

主に中欧諸国を中心に信者がいますが、アメリカ合衆国など他の地域にも教会が存在します。アメリカでは、ポーランド系移民によって形成された「ポーランド国民カトリック教会」などが「オールド・カトリック」として知られています。

もう一度検索