徳川夢声

徳川夢声について

徳川夢声（とくがわ むせい、1894年4月13日 - 1971年8月1日）は、日本のエンターテインメント界における先駆者であり、特に弁士、漫談家、作家、俳優として多方面で活躍したことから、「元祖マルチタレント」と称される人物です。本名は福原駿雄（ふくはら としお）で、彼は「彼氏」や「恐妻家」といった造語でも知られています。また、日本放送芸能家協会（現在の日本俳優連合）の初代理事長を務めるなど、その影響力は広範囲に及びました。

幼少期と教育

島根県益田市で生まれた徳川夢声は、幼少の頃に津和野で一時を過ごした後、上京し東京で育ちました。彼の母方の叔父には著名な口演童話家である天野雉彦がいます。3歳の時、母に見捨てられた彼は祖母に育てられ、幼少期から話術に長けていたと言います。学生時代、彼は近所に住む人妻と恋愛関係になりましたが、彼女は後に新劇界の伝説的な女優となる伊沢蘭奢に成長しました。彼は赤坂小学校や東京府立第一中学校を経て、後に憧れの落語家になるために三遊亭圓子に弟子入りを決意しますが、父親の反対に遭います。

弁士としてのキャリア

1913年、彼は無声映画の弁士としてデビューし、「福原霊川」という名前で活動を開始します。その後、様々な映画館で主任弁士として働き上げ、特に1921年には日本初公開のドイツ表現派映画『カリガリ博士』の弁士を務めました。1925年には新宿武蔵野館に入館し、東京で名の知れた弁士となりますが、ストレスからアルコールに依存し、私生活では暗い影をもたらしました。

私生活と再婚

40歳の時に妻を病で失った徳川夢声は、その後3人の娘を抱えながら生活に苦労しました。しかし、彼は親友の未亡人である静枝と再婚し、長男をもうけました。人生の終焉を見越して不安を抱いていた彼でしたが、結果として長樹に恵まれました。

漫談と文学

昭和の時代にトーキー映画の登場により弁士の需要が減少した彼は、漫談や舞台演劇に活動の場を移します。1926年からは珍芸劇団「ナヤマシ会」を結成し、特別イベントなどにも参加しました。1939年からはNHKラジオで『宮本武蔵』の朗読を開始し、多くのリスナーに親しまれる存在となりました。また、作文やエッセイも多数執筆し、ユーモア作家倶楽部の創設メンバーに名を連ねるなど、文筆家としても成功を収めました。特に、彼の日記は『夢声戦争日記』として出版され、戦争時代の貴重な資料となっています。

昭和後期の活動

戦後は新たなメディアの恩恵を受け、ラジオやテレビへと活動の幅を広げました。テレビの初期から関わり、数々の番組に出演。1951年には芸術祭賞を受賞し、1955年には菊池寛賞を獲得するなど、その業績は数多くの賞で評価されました。彼の代表作であるラジオ朗読『宮本武蔵』は、多くの再放送を重ね、根強い人気を誇りました。

最期と評価

1971年8月1日、脳軟化症と肺炎による合併症で急死した徳川夢声は、77歳という短い生涯を送ったものの、その影響力は色濃く残っています。日本のエンターテイメント界への貢献は今も多くの人々に語り継がれています。彼の墓所は府中多磨霊園にあり、最期の言葉は「おい、いい夫婦だったなあ」とされています。また、彼を称える「徳川夢声市民賞」は、故郷の益田市で彼と同様に話芸をもつ人々を表彰するために設立されています。

もう一度検索