心 (五臓)

伝統中国医学における「心」

伝統中国医学（中医学）における「心」は、単なる心臓の機能に留まらず、より広範な役割を担う概念です。現代医学でいうところの心臓を含む循環器系全体の働きに加え、脳の機能の一部も「心」の機能として捉えられています。

「心」の機能

「心」は五臓（肝・心・脾・肺・腎）の一つであり、五行思想では「火」に属します。そして、小腸、脈、顔面、舌などと密接な系統を形成しています。「心」の主要な機能は、以下の3つに集約されます。

1. 意識と精神活動の統括

「心」は、意識や精神活動を司る中枢として機能します。中医学では、意識・精神活動を「神（しん）」と呼び、「心」が精神活動の物質的な基礎となる「血（けつ）」をコントロールすることで、「神」を宿すと考えられています。つまり、「心」は精神の活動を支える非常に重要な臓器であると言えます。

2. 血脈循環の支配

「心」は、全身を巡る血液の流れを支配しています。「血」は脈の中を流れ全身を循環しますが、「心」はその「血」を脈中に送り出し、循環を維持する役割を担います。したがって、血圧や脈拍など、血脈に関する様々な現象は「心」と密接に関連しています。

3. 状態が顔面や舌に表れる

「心」の状態は、顔色や舌の状態に現れると考えられています。特に、舌は「心」の状態を最も顕著に反映する部位とされ、味覚や言語などの生理機能も「心」の機能と深く関わっています。「心」に異常が生じると、舌が赤く腫れたり、味覚に異常が現れたりすることがあります。

小腸との関係

「心」と小腸は、表裏一体の関係にあり、互いに影響を及ぼし合っています。これは、五行思想における陰陽の対応関係に基づいています。経絡においても表裏の関係にあり、例えば、「心」の機能に異常が生じた場合、小腸に症状が現れたり、その逆のパターンも存在すると考えられています。

このように、「心」は中医学において、単なる臓器としての機能を超え、精神活動や血脈循環、さらには他の臓器との連携を通じて、身体全体の調和を保つ上で不可欠な役割を果たしているのです。

参考文献

• - 長濱善夫『東洋医学概説』創元社〈東洋医学選書〉、1961年、180頁。ISBN 4-422-41301-5。

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