心のモジュール性

心のモジュール性

心のモジュール性とは、心が特定の機能を実行するために、それぞれが独立した、生得的な構造（モジュール）に基づいているという考え方です。この概念は、ノーム・チョムスキーの普遍文法、生成文法が最初に示唆したとされ、その後、多くの研究者によって議論されてきました。

モジュール性の概念

心のモジュール性という考え方は、心の機能構造に関する二つの異なる視点から発展してきました。

水平的な視点: 記憶、想像力、判断といった精神的なプロセスが、互いに相互作用していると考えます。この視点では、心の機能は領域特異的ではありません。
垂直的な視点: 精神的な機能は、領域特異性に基づいて区別され、遺伝的に決定され、特定の神経学的構造と連携していると考えます。この視点は、計算機的で自律的な心の働きを想定します。

フォーダーのモジュール説

ジェリー・フォーダーは、心のモジュール性という考え方を再評価し、1983年に著書『Modularity of Mind』で明確に提唱しました。フォーダーは、モジュール説が行動主義と認知主義の中間に位置すると考えました。

行動主義は、「心」をカプセル化（他の認知領域の影響を受けないこと）され、非推論的（他の情報を加えることなく直線的に伝達されること）な「反射」と捉えようとしました。一方、認知主義は、低レベルのプロセスを高次のプロセスと連続的であると考え、他の認知領域の影響を受けやすいとしました。

フォーダーは、下位レベルの認識プロセスは、高次レベルのプロセスと同様に推論的であり、反射のようにカプセル化されていると考えました。彼は、下位レベルの認識プロセスはモジュール的であると主張する一方で、高次レベルの認識プロセス（創造性など）はモジュール的ではないと考えました。

モジュールの特徴

フォーダーは、モジュールシステムが以下の特徴を持つと考えました。

1. 領域特異性: 特定の種類の入力にのみ反応する。
2. 情報のカプセル化: 他の精神システムを参照する必要がない。
3. 強制的な発火: 自動的に作動する。
4. 即座の作動: 限られたデータベースのみを参照する。
5. 浅い出力: 出力は比較的単純である。
6. 限定されたアクセス可能性: 全ての情報が利用できるわけではない。
7. 特徴的な個体発生: 特定の発達パターンを示す。
8. 洗練された神経構造: 特定の神経基盤を持つ。

進化心理学的な視点

進化心理学、特にレダ・コスミデスとジョン・トゥービーの研究は、モジュールが自然選択の過程で進化した心の単位であると主張します。この視点では、現代人の行動の多くは、人類の進化の初期に起きた自然選択によって形成されたと考えられます。例えば、顔認識、血縁認識、恐怖、協力行動、裏切り検出などのためのモジュールが存在すると考えられています。

議論と批判

心のモジュール性理論に対しては、領域一般的な脳構造を仮定する理論も存在します。この視点では、精神的な働きは脳全体に分散しており、独立した部分に分解することはできないと主張します。また、精神プロセスの分類が十分に確立されていないという批判もあります。

心のモジュール性に関する議論は、心の構造と機能に関する理解を深める上で重要な役割を果たしています。今後の研究によって、心のモジュール性がより深く理解されることが期待されます。

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