心形刀流

心形刀流（しんぎょうとうりゅう）

心形刀流は、江戸時代初期に伊庭秀明によって創始された日本の剣術の流派です。この流派は、本心刀流を基にしており、一刀だけでなく二刀の技法も習得することができます。さらには、抜合と呼ばれる居合の技術や、枕刀という小薙刀術も伝承されています。心形刀流という名称は、剣の形のみならず、剣を使う者の精神面、つまり心の在り方にも重きを置く流派であることを示しています。

歴史的背景

心形刀流は、伊庭秀明が天和2年（1682年）に創始しました。秀明は妻である片貞明から本心刀流の印可を受けており、彼自身は新陰流など他の流派も学んでいたとされています。

第2代の伊庭秀康の弟子である水谷忠辰は独自の技を加え、その系統が心形刀流甲州派として知られるようになりました。松浦清（平戸藩主）はこの派を受け継ぎ、心形刀流の教えを広めました。特に彼は『甲子夜話』や『伊庭氏剣法家伝略記』などの著作を残し、流派を文学的にも普及させました。

第8代の伊庭秀業は、防具を用いた打ち込み稽古を導入し、幕末には「練武館」という道場を開設し、多くの武士たちに剣術を教えました。秀業は江戸の四大道場の一つに数えられるほど、その道場は繁盛していましたが、やがて政治的な事情から隠居を余儀なくされました。彼の息子である第9代の伊庭秀俊が心形刀流を継承し、幕府の講武所で師範役として活躍しました。

心形刀流の伝承

心形刀流はその後も、各藩において門人たちによって受け継がれました。米沢藩では藩主の上杉家が心形刀流を学び、幕末期には須藤兵八郎などが伊庭道場で稽古していました。また、村松藩では速水家を中心に多くの人々が心形刀流を修行しました。

新発田藩でも大野誠が道場を開き、龍野藩では水谷虎之助によってその道統が広がりました。紀州藩の安藤氏や徳島藩の多田家などでも心形刀流が伝承され、特に徳島藩では多田家や佐藤家が幕末時代に多くの門人を抱えていました。また、人吉藩では西家が代々この流派を受け継いできました。

伊庭家系譜と流派の特色

心形刀流の宗家である伊庭家は「一子不伝」という家法を持ち、実子がいない場合でも最も優れた弟子を後継者とすることが定められています。第3代以降は旗本としても取り立てられています。門人には「常◯子」という剣号が与えられる習慣があります。

心形刀流はその技法の豊富さが特徴で、「抜合」や「組太刀」だけではなく、「枕刀」や「二刀の形」など、多彩な技術が体系的に組み込まれています。特に、居合の技法は洗練されたもので、精神集中を必要とするため、心形刀流の名にふさわしい深い哲学が根底に流れています。

現代における心形刀流

現在でも心形刀流は、亀山藩に由来する伝統を持つ系統が存在し、日本古武道協会に加盟しており、三重県並びに亀山市では無形文化財に指定されています。このように、心形刀流の技術は江戸時代から現代にかけて確実に受け継がれています。

もう一度検索