パレットナイフの殺人

『パレットナイフの殺人』について

1946年10月15日に公開された日本の探偵映画『パレットナイフの殺人』は、江戸川乱歩の短編小説『心理試験』を原作としています。この作品は、大映映画が戦後に製作したスリラー映画の一つであり、同じく久松静児監督、脚本は高岩肇、主演は宇佐美淳が務めていることが特徴です。この映画は、日本初の本格ミステリ映画として位置づけられており、特に倒叙ミステリの先駆けとされています。

概要

本作は、大映が戦後に制作したスリラー映画の中で、記念すべき第二作目となります。原作小説との共通点は一部のプロットだけであり、登場人物やストーリー、犯行動機などは全くのオリジナルです。原作の探偵である明智小五郎は登場せず、川野警部が探偵役を担います。また、映画のタイトルには大映社長であった菊池寛の発案があり、タイトル自体も後に成功を収めたと評されています。

あらすじ

物語の舞台は昭和19年（1944年）。新進気鋭の画家松村武は、憲兵中尉の岩崎啓一によって逮捕されます。この逮捕は、富豪・本荘氏の妻である悠紀子に横恋慕する岩崎の陰謀によって引き起こされたものです。終戦後、松村は未亡人の悠紀子のもとへ向かいますが、岩崎は彼女を執拗に狙っていました。岩崎は悠紀子を絞殺した後、パレットナイフで松村になりすます犯行を装います。

松村は悠紀子の殺人容疑で逮捕されるものの、警視庁の川野警部は真犯人が岩崎であると疑い、嘘発見器を使って松村と岩崎に心理試験を実施します。しかし、巧妙なトリックを持つ岩崎は試験に備えて訓練し、有利に立ち回ってしまいます。結果として、心理試験の結果も松村に不利なものとなりますが、川野警部は岩崎の過度な自信に疑念を抱くこととなります。

原作との相違

映画は、原作『心理試験』とは多くの点で異なります。原作では大学生が動機から殺人を犯す様子が描かれていますが、映画内の犯人は整然としたアリバイ工作を行い、さらには嘘発見器を利用するなどの新しい要素が加えられています。これにより、映画はよりエンターテイメント性を強めています。

評価と反響

この映画は、公開直後から賛否分かれる評価を受けました。原作者の乱歩は、試写後に「割合まとまっているが、殺人動機が無理」と感じたと日記に残しており、異なるストーリー展開に対して不満もあったようです。一方で、映画評論家の石上三登志は、本作が倒叙ミステリジャンルにおいて評価されていることを伝えています。このように、作品は様々な視点から議論されることになりました。

社会的背景

また、本作は1950年の二俣事件とも関連しています。この事件では、犯人が映画のトリックを模倣したとされており、社会に多大な影響を与えることになりました。映画に描かれたようなアリバイ工作が、実際の事件に影響を与えたことは、この作品の一つの側面と言えるでしょう。

まとめ

『パレットナイフの殺人』は、日本映画における探偵映画の先駆けとして、また江戸川乱歩の作品の映画化という観点からも重要な作品です。オリジナルのストーリー展開や巧妙なトリック、さらには社会的な反響を巻き起こした背景など、多角的な視点から楽しむことができる映画となっています。

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