志方町

加古川市志方町は、兵庫県の播磨地方南東部、特に加古川市の最も北側に位置する地域です。この地域は、かつて印南郡に存在した同名の自治体、「志方町」の区域とほぼ一致します。地理的には、播磨臨海工業地帯の奥座敷と形容されるように、三方を山に囲まれた盆地状の地形が特徴です。現在の人口は約1万1000人ですが、近年は減少傾向が続いています。加古川市内の町域としては、最も広大な面積を占めています。

地勢とその成り立ち

志方町は、北、東、西の三方向を山地に囲まれ、南に向かって大きく開いた独特の地形を持っています。総面積の約70%が山地で占められており、中央部は天神山、宮山、石打山といった山によって東西に分断されています。東側の平地は、加古川の支流域に沿った比較的平坦な帯状の土地が広がっており、遠く加古川西岸まで続いています。一方、西側の平地は緩やかな起伏のある台地が形成され、南側の神吉平野へと続いています。地域の最高地点は標高304.2メートルの高御位山、最低地点は横大路大坪南の標高5メートル地点です。

周辺地域との境界は、南が神吉地区（宝殿）、南西が高砂市、西が姫路市、北が加西市、東が平荘町となっています。

地名の由来

「志方」という地名の起源には諸説ありますが、最もよく知られているのは、神功皇后が三韓征伐の際にこの地に立ち寄り、現在の宮山からの眺めに感嘆し、多くのシカが田野で群れ遊ぶ様子を見て「あなおもしり、鹿田とは名付けまし」とおっしゃったことに由来するという説です。この「鹿田」が後に改称され、さらに「志し来たりし方」という意味合いを込めて「志方」となったと伝えられています。

歴史の足跡

志方町周辺からは多くの古墳群が発見されており、この地には縄文時代や弥生時代から人々が集落を形成し、生活を営んでいたことがうかがえます。江戸時代に入ると、この地域は一橋徳川家の所領となり、細工所村には代官所（細工所陣屋）が置かれ、玉田氏が代々代官職を世襲しました。これは、当時の政治・経済における当地域の重要性を示す歴史的な出来事です。

近代の変遷と加古川市への編入

昭和の大合併期にあたる1954年8月1日、町村合併促進法に基づき、印南郡に属していた志方村、東志方村、西志方村が合併し、新たに印南郡志方町が発足しました。町制施行後、昭和40年代には近隣の高砂市との合併が検討され、協議会が設立されるなど具体的に進められましたが、特に地域住民からの強い反対意見や町政を担う側の体制変化により、この合併は実現しませんでした。

1970年代に入ると、周辺自治体との広域的な行政連携の機運が高まり、加古川市、高砂市、稲美町、播磨町、志方町の2市3町による合併構想が持ち上がりました。石油ショック後の財政難なども背景に、合併によるスケールメリットが期待されましたが、高砂市議会での承認が得られず、高砂市が協議から離脱したため、2市3町による合併は頓挫します。その後、条件の整った自治体間での合併を進める方針となり、1978年3月6日、志方町は加古川市との1対1での合併を提案。これを受け入れた加古川市との間で協議が進められ、翌1979年2月1日、志方町は加古川市に編入され、町としての歴史に幕を下ろしました。加古川市への編入後、地域には加古川市中央消防署志方分署（1983年）や、幼保一体化施設であるしかた子ども園（2002年）などが開設されています。

経済活動

志方町は古くから農産業が盛んな地域であり、播磨地方の穀倉地帯の一部を形成しています。米作や麦作が主要ですが、花卉栽培や特産のイチジク栽培も行われており、かつては綿作も手掛けられていました。

工業分野では、特に靴下製造が重要な産業です。「志方靴下」として知られるその歴史は古く、明治時代初頭に住民が上海から手編み機を持ち帰ったことから始まったとされています。大正期には自動編立機が導入されるなど技術革新が進み、関東大震災後の情勢変化なども影響して、播磨地域は全国有数の靴下産地として急速に発展しました。戦後も合成繊維の開発や設備の近代化、技術の高度化が進み、現在ではコンピューター編立機や特殊素材を使用した付加価値の高い商品開発に注力しています。また、靴下以外にもタオル製造も行われています。

地域を彩るもの

地域内には、家畜のと畜解体を行う加古川食肉センターのような施設があり、食肉産業を支えています。教育施設としては、しかた子ども園をはじめ、志方小学校、志方東小学校、志方西小学校、そして志方中学校があり、地域の子供たちの学びの場となっています。

歴史的な場所も多く、古墳群（面方谷古墳、天神山古墳群）や城跡（志方城、中道子山城）、江戸時代の代官所跡（細工所陣屋）などが点在しています。作家・三島由紀夫の本籍地であったことに関連し、「三島由紀夫先生慰霊の碑」も建てられています。その他、安楽寺、長楽寺、志方八幡宮、観音寺といった古刹や神社も地域の歴史を見守っています。地域住民の生活を支える公共施設として、志方体育館や志方郵便局、加古川市役所志方市民センターなどがあります。また、毎年秋には「コスモスまつり」が開催され、多くの人々で賑わいます。

志方町は、豊かな自然景観と長い歴史、そして農業や伝統的な靴下産業に支えられた、魅力あふれる地域です。

出身者（一部）

志方町は、様々な分野で活躍した人物を輩出しています。

政治・経済: 平岡定太郎（内務官僚、樺太庁長官、三島由紀夫の祖父）、平岡萬次郎（弁護士、衆議院議員）、沼田静治（大地主、志方銀行頭取）、横山三良（三喜繊維社長、兵庫県靴下工組理事長）など。
歴史上の人物: 櫛橋光（黒田孝高（官兵衛）の正妻、志方城主櫛橋伊定の娘）。

現在、志方町は加古川市の一部として、その自然と歴史、そして産業を継承し、地域社会を形成しています。

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