志賀寺上人の恋

志賀寺上人の恋

『志賀寺上人の恋』は、三島由紀夫による短編小説で、全5章から成り立っています。この作品は、高徳の老僧である志賀寺上人と京極御息所との禁断の恋愛を描いており、特に信仰と恋愛の対立というテーマに焦点を当てています。物語は、老僧が京極御息所に出会い、彼女に深い魅了を感じることで始まります。

あらすじ

物語の主人公である志賀寺上人は、長年の修行を重ねてきた高徳の僧です。彼は現世をすべて塵芥のように見ており、美しい女性に対しても、煩悩に縛られた迷える者として不憫に思う心境を持っています。しかし、ある春の午後、彼が湖畔で瞑想しているとき、京極御息所の美しさに心を奪われてしまいます。二人は目を合わせ、一瞬のうちに上人の心は崩壊し、彼がこれまで抱いていた浄土への思いに揺らぎが生じるのです。

上人は、御息所の美しさを仮のものであると自らに言い聞かせますが、薄い皮膚に覆われた老躯の上人には、彼女の姿が頭から離れず、周囲の人々もその変化に気づきます。一方、御息所は上人をすっかり忘れてしまっていますが、上人の思いが宮廷内で話題にされるにつれ、彼女の興味も引かれていくのです。

上人は、御息所に対する恋が不可能であることを理解しつつ、その恋の幻影に思いを馳せていきます。彼は代わりに、愛の不可能性を受け入れ、その美しい幻影を思い描きながら、自らの心を静めようとするのです。この過程で上人は、御息所との再会を切望し、再度彼女に会うことを決心します。

物語の展開

宮廷に赴いた上人は、御所の庭に静かに立っていることに気づかれ、侍女が御息所にそのことを伝えます。御息所は驚くものの、どう対処していいか分からず、上人を無視するように命じます。しかし、上人はその場から動くことができないまま待ち続け、御息所もその姿に心を悩ませます。

夜が深まる中、上人は御簾の前で立ち尽くしています。それを知った御息所は、愛されることに対する不安を抱く一方で、上人の存在が自分の浄土にも影響を与えるかもしれないことに心を痛めるのです。やがて御息所は、侍女を呼び、上人を御簾の中に招き入れるよう命じます。

クライマックスと結末

上人は、膝をついて泣き崩れ、御息所の手に触れます。その瞬間、御息所は彼の手から「仏の御手」を感じ、その心に揺らぎが生じます。しかし、上人は何も言わず、その手を離して立ち去ります。この行動は、彼の信仰心を表し、愛よりも信仰を選んだ瞬間でもあるのです。

数日後、御息所は上人が草庵で入寂したという知らせを受け、その後美しい経文を納経したことが伝えられます。この物語は、かつての信仰を貫き通したがために失った愛の痛みを描きつつ、信仰と欲望の深い葛藤を浮き彫りにしています。志賀寺上人の恋は、単なる恋愛物語ではなく、愛と信仰による自己との戦いを象徴する深い作品となっています。

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