忘れられた者 (ムソルグスキー)

バラード『忘れられた者』

モデスト・ムソルグスキーが1874年に作曲したバラード『忘れられた者』は、情緒豊かな歌曲であり、ピアノの伴奏によって演奏されます。この作品は、約2分の演奏時間を持ち、聴く者の心に強い印象を与えます。

背景と制作の経緯

この曲は、1871年に戦争画家ヴァシーリー・ヴェレシチャーギンによって制作された同名の絵画に触発されて作られました。ヴェレシチャーギンの作品は、前線で命を落とし、そのまま放置されたロシア軍兵士の亡骸を描写し、その周囲にはカラスが群がっています。この絵は、戦争の残酷さや無情さを印象的に表現しています。

ムソルグスキーは、1874年にサンクトペテルブルクで開かれた展覧会でこの絵を目にし、その衝撃的なビジュアルに深く心を動かされました。彼は、詩人アルセニイ・ゴレニシチェフ＝クトゥーゾフがこの絵に触発されて書いた詩に曲を付け、ヴェレシチャーギンに献呈しました。この作品は、ムソルグスキーとゴレニシチェフ＝クトゥーゾフの最初のコラボレーションであり、その後のパートナーシップは『日の光もなく』や『死の歌と踊り』などの重要な作品を生み出す基盤となりました。

音楽スタイル

『忘れられた者』の音楽は、全体を通して陰鬱な雰囲気が漂い、葬送行進曲を想起させるものです。ムソルグスキーは、選び抜かれた和音とリズムを用いて、戦争というテーマに対する深い思索を具現化しています。彼の音楽は聴取する者に重苦しさと共に、感情の深さを体験させるものとなっています。

このバラードは、発表された年に音楽出版社ベッセリ社から出版され、ムソルグスキーの死亡後には、1887年にグートヘイル社から再版されました。

画家の運命

ヴェレシチャーギンの絵については、ロシア皇帝アレクサンドル2世がその内容に対し「ロシア軍には同胞の遺体を異国に放置する者はいない」という批判を行いました。この結果、画家は作品を自ら破棄せざるを得なくなり、この出来事は彼の精神状態に深刻な影響を与えたと言われています。

歌詞の大意

歌詞は、主に戦争による死や忘却のテーマを扱い、その内容は聴き手に深い印象を与えるものです。ムソルグスキーとゴレニシチェフ＝クトゥーゾフの作品には、戦争の残惨さや生死についての厳粛な問いかけが込められています。

参考文献

• - 伊東一郎・一柳富美子編訳「ムーソルグスキイ歌曲歌詞対訳全集」（新期社）
• - アビソワ（伊集院俊隆訳）「ムソルグスキー その作品と生涯」（1993年 新読書社）
• - 「最新名曲解説全集23 声楽曲III」（音楽之友社）
• - 一柳富美子「ムソルグスキー 「展覧会の絵」の真実」（2007年 東洋書店）
• - 森田稔「ロシア音楽の魅力 グリンカ・ムソルグスキー・チャイコフスキー」（2008年 東洋書店）

このように、バラード『忘れられた者』は、ムソルグスキーの業績や時代背景を反映した名曲であり、聴く者に強いメッセージを伝えます。

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