応急入院

応急入院とは

応急入院は、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律（以下、精神保健福祉法）第33条の7に規定されている、精神障害者のための非自発的入院措置の一つです。この制度は、自傷他害の恐れがない精神障害者に対し、精神保健指定医の判断に基づき、72時間以内の入院を可能とするものです。

入院形態

精神科への入院には、主に以下の種類があります。

自発入院: 任意入院とも呼ばれ、患者自身の意思で入院します。
非自発入院: 患者の意思によらず、法的な要件を満たした場合に入院となります。
措置入院: 自傷他害の恐れがある場合。
緊急措置入院: 措置入院が必要な状況で、緊急性が高い場合。
医療保護入院: 自傷他害の恐れはないが、患者自身が入院を希望できない場合。
応急入院: 上記のいずれの要件も満たさないものの、緊急性のある一定の条件下で、入院期間を限定して強制的に入院させる制度です。

応急入院は、医療保護入院と同様に、管理者の権限で強制入院が可能である点で共通しています。また、措置入院と緊急措置入院の関係と同様に、応急入院は緊急医療保護入院と捉えることもできます。

法的根拠

精神保健福祉法第33条の7に規定された応急入院の要件を満たす行為は、逮捕監禁罪の違法性阻却要件に該当します。しかし、応急入院の要件に違反した場合は、逮捕監禁罪となる可能性があります。また、同法第34条3項に規定された応急入院に係る移送の要件を満たす場合は、略取・誘拐罪の違法性阻却要件に該当しますが、要件に違反した場合は略取・誘拐罪となる可能性があります。

応急入院の要件

応急入院が認められるには、以下の要件を満たす必要があります。

1. 精神保健指定医の判断: 精神保健指定医の診察の結果、精神障害者であり、直ちに入院させなければ、その者の医療及び保護を図る上で著しい支障があると判断されること。また、その精神障害のために任意入院が行われる状態にないことが必要です。
2. 緊急性と家族等の同意: 上記の判断に加え、緊急を要し、家族等の同意を得ることができない場合、都道府県知事の移送によって応急入院が認められます。

医療保護入院と比較して、「直ちに」入院させなければ「医療及び保護を図る上で著しく支障がある」という緊急性や重大性がより強調されています。また、移送に関しては家族等の同意は不要です。移送制度については、精神保健福祉法第34条を参照してください。

緊急その他やむを得ない理由がある場合は、精神保健指定医に代わって特定医師が判断することも可能です（ただし、入院期間は12時間以内）。

また、応急入院には、以下の点も要件として含まれます。

医療及び保護の依頼: 家族等だけでなく、同居人やケースワーカー等からの依頼も可能です。ただし、病院関係者からの依頼は「患者狩り」の疑いを生じさせる可能性があるため注意が必要です。
緊急性と家族等の同意: 緊急性ゆえに家族等と連絡が取れない場合などが該当します。家族等が反対している場合は、応急入院の要件を満たしません。
入院の告知: 入院後、患者に告知する必要があります。

応急入院の効果

応急入院が成立すると、医療保護入院と同様に、病院の管理者の権限で入院が決定されます。入院を受け入れる病院は、施設基準を満たし、「応急入院指定病院」として指定を受ける必要があります。この指定は、措置入院の指定よりも厳しい基準が設けられています。

応急入院の入院期間は72時間以内です。入院後、管理者は「直ちに」入院届を提出する必要があります。応急入院では、緊急措置入院のような、入院期間内に都道府県知事が措置入院の必要性を判断する義務は課されていません。しかし、通常は医療保護入院への切り替えを視野に入れ、家族等との連絡を試みます。退院時には退院届の提出は不要です。

その他の留意点

実際には、近親者の所在が不明な患者や、生活史を想起できない患者への対応が課題となることがあります。個人情報保護法の観点から、病院が身元調査を行うには限界があり、精神保健福祉法や関連する通知でも、これに関する規定はありません。

精神保健福祉法に基づく入院形態の中では、応急入院の運用例は最も少ないのが現状です。これは、応急入院指定病院としての指定を受けるハードルが高いことや、公費負担医療ではないため、身元不明者の受け入れに慎重になる病院が多いことが理由として挙げられます。

関連事項

精神疾患
任意入院
措置入院
緊急措置入院
医療保護入院

もう一度検索