精神保健及び精神障害者福祉に関する法律

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律（精神保健福祉法）について

精神保健福祉法は、精神障害者の医療と保護、社会復帰の促進、自立支援を目的とした日本の法律です。この法律は、精神障害者の人権を尊重し、社会参加を促進するための重要な枠組みを定めていますが、その運用には課題も指摘されています。

法律の目的と変遷

精神保健福祉法は、精神障害者の医療、保護、社会復帰の促進、自立支援、社会経済活動への参加促進、および精神障害の予防を目的としています。当初は「精神衛生法」という名称でしたが、1988年に「精神保健法」に、1995年に現在の「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に改正されました。

この法律は、厚生労働省社会・援護局精神保健福祉課が所管しており、その構成は、総則、精神保健福祉センター、地方精神保健福祉審議会及び精神医療審査会、精神保健指定医、精神科病院、医療及び保護、保健及び福祉、精神障害者社会復帰促進センター、雑則、罰則、附則、別表から成ります。

強制入院制度とその背景

精神保健福祉法は、その歴史的背景から、精神障害者の強制入院制度に関する規定が多く含まれています。当初は精神科病院への隔離収容を強化する傾向がありましたが、1984年の宇都宮[[病院事件]]以降、入院患者の人権擁護が重視されるようになりました。現在では、社会的入院からの退院促進が重視されています。

本法で規定される入院形態には、措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院、任意入院があり、このうち前4つは強制入院（非自発入院）です。その他、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律による入院処遇や、刑事訴訟法上の鑑定留置としての鑑定入院などがあります。

入院の種類

精神科への入院は、大きく自発入院（任意入院）と非自発入院（措置入院、緊急措置入院、医療保護入院、応急入院）に分けられます。これらの入院形態に共通する事項は、精神科病院、精神病床、精神保健指定医に関する規定です。

精神科病院は、都道府県が設置する都道府県立精神科病院か、厚生労働大臣が指定する病院とされています。精神病患者は原則として精神病室に入院することになりますが、例外的に他の病室に入院する場合は、本法の適用を受けません。精神病床では、本法に基づいた入退院や処遇が必要であり、常勤の精神保健指定医が配置されていなければなりません。精神保健指定医は、入退院や処遇に関して独占的な判断権を持ちます。

精神保健福祉法上の処遇と人権

精神保健福祉法上の非自発入院の要件、移送の要件、処遇に関する要件は、違法性阻却要件に該当します。しかし、これらの要件に違反する行為は、逮捕監禁や略取誘拐などの犯罪行為に該当する可能性があります。入院患者の隔離や身体的拘束は、法律で規定された要件を満たす必要があり、違反した場合は刑事罰の対象となります。また、不法な非自発入院や処遇を受けた場合は、精神医療審査会への退院請求や処遇改善請求、人身保護請求を行うことができます。

入院患者の権利と行動制限

入院患者に対しては行動制限が課されることがありますが、その内容や手続きは通達レベルに委任されています。信書の発受、人権擁護の行政機関職員や弁護士との電話や面会は制限できません。12時間を超える隔離や身体的拘束は指定医の判断が必要です。その他の行動制限は医師の指示で可能ですが、一定の基準に従う必要があります。これらの規定は、全ての入院形態に適用されます。入院の強制や行動制限に対するセーフガードとして、指定医の報告制度や定期病状報告制度、退院請求・処遇改善請求制度、都道府県精神医療審査会の制度があります。

しかし、強制医療の内容や手続きに関する規定が少ないため、恣意的な濫用が起きていると指摘されています。精神疾患入院患者に対する防御権が十分にないため、権利擁護者の配置が求められています。

無断退去者への措置

自傷他害の恐れのある入院患者が無断で退去した場合、病院管理者は警察署長に通知し、探索を求めることができます。警察官が発見した場合は、病院に引き渡すまでの間、一時的に保護することができます。しかし、自傷他害の恐れのない入院患者が無断で退去した場合、法的な探索はできません。措置入院者と緊急措置入院者以外は精神保健指定医が自傷他害の恐れがあるかどうかを判断します。

福祉制度と行政監査

精神保健福祉法は、精神障害者保健福祉手帳制度や相談指導に関する規定も設けていますが、障害者福祉に関する条文は比較的少ないです。都道府県知事は精神医療審査会による審査を行い、不適切な措置や処遇に対しては改善命令を出すことができます。しかし、精神医療審査会の機能が形骸化しているという批判もあり、改善が求められています。

行政監査の現状と問題点

精神医療審査会は、入院患者の措置や処遇が適切であるか審査する機関ですが、委員の出席要件が守られていない事例が発覚しています。また、入院患者の措置が不適当であった場合の改善命令に従わない場合は、入院医療の一部または全部の制限命令を出すことができます。

国際連合人権理事会は、日本における精神障害者の長期入院や身体拘束、隔離が過剰であると警告し、独立組織による監査と、外来ケアやコミュニティケアの充実を勧告しています。日本では、精神科のベッド数や入院患者数が世界的に多く、長期入院が生活保護費を上昇させているという問題もあります。

精神障害者社会復帰施設

かつて精神保健福祉法には、精神障害者生活訓練施設、精神障害者授産施設、精神障害者福祉ホーム、精神障害者福祉工場、精神障害者地域生活支援センターなどの社会復帰施設が規定されていましたが、現在では新規設置はできません。

関連情報

精神保健福祉法に関連する情報として、精神障害者保健福祉手帳、通院医療費公費負担制度、障害者総合支援法、障害者差別禁止法、障害者虐待防止法、精神科医療、精神科医、精神保健指定医、医療観察法などがあります。また、任意入院、医療保護入院、措置入院、緊急措置入院、応急入院など、精神科への入院形態についても理解しておくことが重要です。

精神保健福祉法は、精神障害者の人権を守り、社会復帰を促進するための重要な法律ですが、その運用には課題も多く、今後の見直しが求められています。

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