思い出の指輪

『思い出の指輪』は、1968年に松竹が製作・公開した日本のミュージカル映画です。斎藤耕一が監督と撮影を兼任しました。当時のグループ・サウンズ人気を背景に、学園の伝統と若者たちの葛藤を描いた青春群像劇となっています。

物語の舞台は、優れた卒業生に「ナルシスの指輪」を贈るというユニークな伝統を持つ城南学園です。この指輪は、男子生徒にとって最高の栄誉とされていました。しかし、次期受章者の選考が迫る中、前年受章者である堺（演：堺正章）が指輪を紛失するという前代未聞の事態が発生します。南太平洋での公演中にこの事実を知った堺から、学園OBで選考委員を務める昌子（演：水森亜土）へ緊急の連絡が入ります。

委員会は、学園の女子生徒たちから推薦された5人の候補者たちに注目します。彼らは、ヴィレッジ・シンガーズのメンバーでもある清水、林、小池、笹井、小松といった好青年たちです。委員会は、彼らを候補者として徹底的な監視下に置きます。

一方、昌子は指輪が見つからないまま選考を進めることに焦りを感じ、「時期尚早だ」と委員会に訴え、指輪の返却を待ちたいと主張します。

ある日、委員会は最終選考のため、候補者5人を生徒会役員である相原真樹子（演：華かおる）の別荘に招集します。しかし、湖畔の別荘へ向かう道中で、彼らは美しい女性、京子（演：尾崎奈々）と出会い、強く惹きつけられます。京子は、かつて5人の高校時代の音楽教師であり、彼らが道を踏み外しそうになった時に音楽を通じて立ち直るきっかけを与えてくれた坂本先生（演：中山仁）の妹でした。

京子は彼らに一夜限りの特別ショーの開催を依頼します。5人は快諾し、ステージで披露したのは、すべて坂本先生が彼らのために書き下ろした楽曲でした。初めて見る彼らの新たな魅力に、真樹子をはじめとする委員や生徒たちは熱狂します。

しかし、このショーを境に、候補者たちは何か裏で企んでいるかのように行動し始めます。やがて、彼らがVSジャズ喫茶という場所で演奏活動を行っていることが委員会に発覚します。規律を重んじる委員会は、彼らの候補者資格を剥奪することを決定します。絶望的な状況の中、その場で昌子から、一同を驚かせる意外な真実が告げられるのでした。指輪の行方、そして候補者たちの運命は――。

本作は斎藤耕一が監督だけでなく撮影技師も務めるという、当時の日本映画界では珍しいスタイルで制作されました。企画は升本喜年、脚本は桜井義久、音楽は脇野孝司が担当しています。

主要キャストは主演のヴィレッジ・シンガーズのメンバー5人を中心に、水森亜土、尾崎奈々、中山仁、毒蝮三太夫といった個性豊かな俳優陣が脇を固めます。さらに、当時の人気グループ・サウンズであるザ・スパイダースやザ・ダーツ、若手人気歌手だった山本リンダなど、豪華な顔ぶれが多数出演しており、作品に彩りを添えています。

本作の大きな魅力の一つは、ふんだんに使用される挿入歌です。主演のヴィレッジ・シンガーズは、彼らの大ヒット曲である「思い出の指輪」「亜麻色の髪の乙女」「虹の中のレモン」「バラ色の雲」などを劇中で披露します。また、ザ・スパイダースの「あの時君は若かった」、山本リンダの「帰らなくちゃ」、ザ・ダーツの「ケメ子の歌」といった、当時の流行歌が次々と登場し、ミュージカル映画としての側面を強く打ち出しています。これらの楽曲が、学園生活、友情、そして淡い恋といった青春のテーマを情感豊かに描き出しています。

本作は、ヴィレッジ・シンガーズの人気絶頂期に制作され、彼らの魅力を最大限に引き出すと同時に、当時の日本の若者文化や音楽シーンを映し出しています。学園ドラマとしての要素に加え、指輪を巡るミステリー、そして何よりも音楽の力が、登場人物たちの心情や物語の展開を牽引していく点が特徴です。斎藤耕一監督の映像美と、時代を象徴する名曲の数々が融合した、ノスタルジックでありながらも瑞々しい青春映画と言えるでしょう。

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