思い橋

木下恵介アワー『思い橋』：秩父の旅館で紡がれる人間模様

1973年4月3日から9月25日にかけて、TBS系列で放送されたテレビドラマ『思い橋』。木下恵介アワーの第13作として、全26話が毎週火曜日のゴールデンタイムに放送されました。木下恵介プロダクション（現ドリマックス・テレビジョン）とTBSの共同制作によるこの作品は、埼玉県秩父市の旅館「ホテル美やま」を主なロケ地として、美しい自然の中で繰り広げられる人間ドラマを描き、多くの視聴者を魅了しました。

物語の中心は、秩父の割烹旅館「二上」とその女将である二上彩子。夫を亡くした彩子は、十数年もの間、女手一つで旅館を切り盛りし、前妻との間に生まれた二人の娘、多美と桂を育ててきました。彩子は、しっかり者で少し勝気な性格。一方、長女の多美は控えめな性格で旅館の手伝いをしており、次女の桂は秩父銘仙の織元「織庄」で働く活発でお節介な女性です。

旅館「二上」には個性豊かな人々が集います。口うるさいながらも情に厚い板前の中西鶴吉とその息子良男、思い橋で自殺しようとしていたところを助けられ、その後旅館を手伝うことになった山下幸子など、それぞれの事情を抱えながら、彩子や娘たちと共に生活を営んでいます。「織庄」の息子で、桂とは友達以上恋人未満の関係にある大須賀伸、そして伸の父である大須賀社長といった人物も物語を彩ります。

そして、物語に重要な役割を果たすのが、「トラベルチェーン」の社員、北晴彦です。彼は「二上」を買収するために正体を隠して旅館に滞在しますが、そこで出会った人々との交流を通して、次第に自らの行動に疑問を抱き始めます。北の上司である吉野や、専務の大庭といった「トラベルチェーン」の人物たちも、物語に緊張感と深みを与えています。

『思い橋』は、これらの登場人物たちの複雑な人間関係や、それぞれの思惑が交錯する中で生まれる様々な出来事を丁寧に描き出しています。恋愛、家族、仕事、そして人生における選択…。様々なテーマが織り込まれ、視聴者に深い感動と余韻を与えます。

『思い橋』は、長らく火曜21時枠で放送されていた『木下恵介アワー』の、この時間帯での最後の作品となりました。続く『炎の旅路』からは水曜22時枠への移動が決まっています。放送ライブラリー（横浜市）には、初回放送分の記録映像が保管されており、その貴重な映像から当時の様子を垣間見ることができます。

近年では、千葉テレビ、BS松竹東急、テレビ神奈川などで再放送され、改めて多くの視聴者から高い評価を受けています。この機会に、昭和の時代の人々の生き様と、美しい秩父の自然を背景にした『思い橋』の世界に触れてみてはいかがでしょうか。

主な登場人物

二上彩子（淡島千景）：旅館「二上」の女将
二上多美（上村香子）：彩子の長女
二上桂（松坂慶子）：彩子の次女
北晴彦（藤岡弘）：トラベルチェーンの社員
中西鶴吉（花沢徳衛）：二上の板前
その他、多くの個性豊かな登場人物たち

スタッフ

企画：木下恵介
脚本：高橋玄洋
音楽：木下忠司
そしてその他多くのスタッフによって制作されました。

主題歌は、ヒロコ・ムトー作詞、木下忠司作曲、ひごじゅんこ歌唱の「夢は流れて」です。

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