思案橋ブルース

楽曲概要

『思案橋ブルース』は、日本のムード歌謡グループ、中井昭・高橋勝とコロラティーノが1968年4月25日に日本コロムビアから発表したシングルレコードです。この楽曲は彼らにとってメジャーデビュー曲にあたり、同時にグループが唯一、そして最大の商業的な成功を収めた楽曲として記憶されています。情感あふれるメロディーと歌詞で、当時の歌謡界に確かな足跡を残しました。

制作背景

この楽曲の作詞・作曲は、グループのトランペッターを務めていた川原弘氏が手がけました。楽曲が誕生した背景には、彼らが長崎市内にあったキャバレー『十二番館』の専属バンドとして活動していた日々があります。そこで演奏されるうちに評判を呼び、客の間でその楽曲に対する評価が高まったことが、レコード会社関係者の耳に留まり、メジャーデビューの直接的なきっかけとなりました。興味深いのは、当時、長崎の別のキャバレー『銀馬車』では、後に「長崎は今日も雨だった」などで一世を風靡する内山田洋とクール・ファイブが専属バンドとして活動していたことです。しかし、『思案橋ブルース』のヒットにより、中井昭・高橋勝とコロラティーノが一足早く全国的な注目を浴びることになったのです。

商業的成功と長崎ブーム

『思案橋ブルース』のヒットは、当時の日本において巻き起こっていた「長崎ブーム」の流れとも深く連動していました。1960年代後半から1970年代初頭にかけては、長崎を題材にした楽曲が立て続けにヒットチャートを賑わせた時期でした。具体的には、春日八郎の『長崎の女』（1963年）、青江三奈の『長崎ブルース』（1968年）、内山田洋とクール・ファイブの『長崎は今日も雨だった』（1969年）、瀬川瑛子の『長崎の夜はむらさき』（1970年）などが挙げられます。これらの楽曲群と共に、『思案橋ブルース』も長崎という都市の情景や情緒を全国に伝える役割を果たし、ブームを牽引することで、長崎への観光誘致にも少なからず貢献しました。商業的にも大きな成功を収め、発売からおよそ4ヶ月後にはオリコンチャートで最高3位にランクインし、その年の年間シングルセールスランキングでは15位に輝きました。

地名としての思案橋

楽曲タイトルにもなっている「思案橋」は、長崎市の中央部を流れる玉帯川（現在の銅座川）に架かっていた橋の名前です。かつてこの橋のたもと、あるいは周辺一帯は、公認の遊廓街として栄え、その通称としても「思案橋」の名が使われました。多くの人々がこの橋を渡る際に、遊廓へ向かうか否かを思案したことから、この名前が付いたという説があります。しかし、実際の橋は1948年の河川の暗渠化工事に伴い撤去されてしまっており、現在ではその名残を示すように、かつて橋が架かっていた場所に欄干の一部が残されているだけとなっています。

収録曲

シングルレコードには、A面に表題曲である「思案橋ブルース」（収録時間3分34秒）、B面にカップリング曲の「別れ道」（収録時間2分41秒）が収められています。両楽曲とも、作詞・作曲は川原弘氏、編曲は川口真氏が担当しました。

主なカバー

中井昭・高橋勝とコロラティーノは、活動期間が比較的短かったため、代表曲である『思案橋ブルース』はその後、様々なジャンルの歌手やグループによってカバーされ、歌い継がれています。主なカバーアーティストとしては、西田佐知子（CD-BOX『西田佐知子歌謡大全集』収録）、ビジーフォー、香西かおり（アルバム『綴織百景 VOL.4 旅』収録）、春日八郎（アルバム『長崎情緒』収録）、はやぶさ（シングル『なんで 横浜…』収録）、パク・ジュニョン（カバー・アルバム『街の風景（九州編）』収録）などが知られています。特に、ムードコーラスグループのロス・プリモスによるカバーは、そのレパートリーの中でも定番の一つとなっています。これは、ロス・プリモスに一時所属していた徳永淳氏が、かつて若手としてコロラティーノにボーヤ兼ドラマーとして参加していたという深い縁があったためと言われています。多くのアーティストに歌われることで、この楽曲は時代を超えて親しまれています。

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