性生活の知恵

性生活の知恵

昭和30年代の日本において、性の問題がまだ社会的にタブー視されていた時代に、医学的な見地から性の知識を広く一般に啓蒙した画期的な著作、そしてそれを基に製作された映画作品群です。

書籍

本書は1960年（昭和35年）に、当時、日本赤十字社本部産院で医局長を務めていた産婦人科医、謝国権氏によって執筆され、池田書店から出版されました。

内容は、単なる性行為のハウツーに留まらず、医学的な立場から人間の性生理、結婚における性、家族計画、そして具体的な避妊法に至るまで、性に関する多岐にわたる知識を分かりやすく解説しています。著者は、読者の幸福に貢献したいという強い思いを抱き、その内容が当時としては大変刺激的でありながらも、発売禁止処分とならないよう表現に細心の注意を払ったとされています。

この書籍は、初版3000部という発行部数から始まりましたが、その革新的な内容と当時の社会のニーズに応える形で、飛躍的に売上を伸ばしました。刊行からわずか1年で152万部を突破し、1970年（昭和45年）には累計200万部を超えるという、驚異的なベストセラー記録を樹立しました。このベストセラーは、それまで曖昧であったり誤った認識が広まっていた性の知識を多くの人々に提供し、「日本人の性意識を根本的に変えた」とまで言われるほど、当時の社会に大きな影響を与えました。

成功を受け、1963年（昭和38年）には続篇にあたる『これからのSEX 続 性生活の知恵』も出版され、こちらも読者の関心を集めました。

書籍の構成を見ると、『正』編では結婚生活と性、性生理、性交とその態位、そして避妊法や家族計画など、基礎的かつ実践的な内容が中心です。一方、『続』編では性教育や初夜、寝室環境など、より踏み込んだテーマが扱われており、時代の変化と共に性の捉え方も変化していった様子がうかがえます。

映画化

書籍のミリオンセラー化という社会現象を受けて、大映東京撮影所はこれを原作とした映画化を企画しました。1961年（昭和36年）には、同名の劇場用映画として製作され、同年7月28日に大映配給で公開されました。

水野洽監督がメガホンをとったこの映画は、原作の啓蒙的な内容を基に、いくつかのエピソードから成るオムニバス形式の劇映画として描かれました。白黒、大映スコープ（画面アスペクト比2.35:1）方式で製作され、上映時間は58分でした。

当時の映画倫理管理委員会（現在の映画倫理委員会）は、その内容から本作を成人映画に指定し、18歳未満の鑑賞を制限しました。この指定は、映画の話題性を一層高めることにも繋がりました。

正篇公開からわずか2か月後の同年9月30日には、続篇にあたる『性生活の知恵 第二部』が公開されました。阿部毅が監督を務めた『第二部』は、正篇とは異なり、新映倫によって一般映画として指定されました。上映時間は64分で、こちらも白黒、大映スコープ方式でした。

これら映画版は、当時の映画表現における性の問題への向き合い方を示す一例と言えます。しかし、現在、東京国立近代美術館フィルムセンターには、これら映画版の上映用プリントなどの所蔵は確認されていません（2012年7月時点）。

『性生活の知恵』は、書籍と映画の両面から、昭和30年代の日本社会における性の認識に大きな一石を投じ、性の知識の普及と意識改革に貢献した、歴史的に重要な作品群と言えるでしょう。

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