怪奇骨董音楽箱

ジェネシスのサードアルバム『怪奇骨董音楽箱』(原題:Nursery Cryme)は、1971年11月12日にリリースされたプログレッシブロックの金字塔です。前作発表後に脱退したメンバーに代わり、スティーブ・ハケットとフィル・コリンズが加入。この5人編成は、ピーター・ガブリエル脱退まで続くことになる、バンドの重要な転換期を象徴するアルバムとなりました。

本作は、イタリアでチャート4位を記録するなど、ヨーロッパでのバンドの人気を飛躍的に向上させることに貢献しました。イギリス国内でも39位と、前作を大きく上回る成績を収め、ジェネシスの知名度向上に繋がりました。また、バンドのアルバムの中では最短となる39分半という収録時間にも関わらず、その濃厚なプログレッシブロックサウンドは、多くのリスナーを魅了しました。アルバムタイトルの『Nursery Cryme』は、“童謡(Nursery Rhyme)”と“罪(Crime)”を組み合わせた造語で、アルバムの世界観を象徴的に表現しています。

楽曲は、トニー・バンクス、フィル・コリンズ、ピーター・ガブリエル、スティーブ・ハケット、マイク・ラザフォードの5名によって作曲されました。代表曲の一つである「ザ・ミュージカル・ボックス」(邦題:怪奇のオルゴール)は、10分を超える大作で、複雑な構成と、物語性を織り交ぜた展開が特徴です。その他にも、「ザ・リターン・オブ・ザ・ジャイアント・ホグウィード」や「ザ・ファウンテン・オブ・サルマシス」(邦題:サルマシスの泉)など、プログレらしい長尺で、変幻自在な楽曲が収録されています。一方で、「フォー・アブセント・フレンズ」(邦題:今いない友の為に)のような短い楽曲も存在し、アルバム全体のバランス感覚が非常に優れています。

メンバーそれぞれの個性も際立っています。ピーター・ガブリエルの個性的なボーカルと、時に不気味で、時に美しく響くフルート、アコーディオンの演奏は、アルバム全体に独特の雰囲気を醸し出しています。スティーブ・ハケットのギターは、複雑でテクニカルでありながら、楽曲の雰囲気に溶け込むように繊細なプレイが聴けます。トニー・バンクスのキーボード、マイク・ラザフォードのベース、そしてフィル・コリンズのドラムスは、楽曲の土台をしっかりと支え、複雑な展開をスムーズに繋ぎ合わせています。特にフィル・コリンズは、ドラムスだけでなく、「フォー・アブセント・フレンズ」ではボーカルも担当し、そのマルチな才能を披露しています。

『怪奇骨董音楽箱』は、メンバーチェンジを経て新生ジェネシスが新たな方向性を示した、重要な作品です。短い収録時間でありながらも、プログレッシブロックの要素を余すことなく詰め込んだ、彼らの代表作の一つと言えるでしょう。アルバム全体から放たれる独特の雰囲気、そして高い音楽性によって、ジェネシスはヨーロッパでの人気を確固たるものとし、後の大成功へと繋がる礎を築きました。各楽曲の緻密な構成、そしてメンバーそれぞれの個性が融合した本作は、プログレッシブロックの歴史に燦然と輝く名盤として、今もなお高い評価を得ています。

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