恋のピンチ・ヒッター

ザ・フー「恋のピンチ・ヒッター」：波乱万丈のヒット曲

「恋のピンチ・ヒッター」（Substitute）は、イギリスのロックバンド、ザ・フーが1966年に発表した4枚目のシングルです。ピート・タウンゼントが作詞・作曲・プロデュースを手掛けましたが、オリジナルアルバムには収録されていません。

楽曲解説

この曲は、ザ・フーが初期のプロデューサーだったシェル・タルミーと決別後、初めてタウンゼント自身がプロデュースした作品です。前作「マイ・ジェネレーション」に続き、全英5位を記録するヒットとなりました。タウンゼントのデモテープが元になっており、アコースティックギターの使用やキャッチーな曲調が特徴です。

ただし、アメリカでは歌詞の一部が変更されています。「俺は白人に見えるが俺の親父は黒人だ」という人種問題に触れる歌詞が、「俺は前に進もうとしてるのに足が後に向かう」という表現に修正されました。また、この曲のリアル・ステレオ・バージョンは存在しません。

発表以来、「恋のピンチ・ヒッター」はザ・フーのコンサートで定番の楽曲となり、『ライヴ・アット・リーズ』、『ワイト島ライヴ1970』、『フーズ・ラスト』など、多くのライブアルバムに収録されています。

ローリング・ストーン誌の「ザ・フーの史上最高の50曲」では11位（2022年）、ペースト誌の「ザ・フーの史上最高の20曲」では13位（2023年）、ギターワールド誌の「偉大なる12弦ギターソング」では18位（2020年）に選ばれるなど、高い評価を受けています。

シングル発表をめぐるトラブル

「恋のピンチ・ヒッター」のシングル発表前、ザ・フーはタルミーのプロデュースで「サークルズ」と「インスタント・パーティ」をレコーディングしていました。しかし、印税を巡る対立からタルミーとの契約を破棄し、リアクション・レコードに移籍します。

彼らは「サークルズ」を再録音し、B面に収録したシングルをリアクション・レコードから発表しましたが、タルミーが著作権侵害で訴え、発売停止処分となります。この事態を予測して、B面を「インスタント・パーティ」としたシングルも同時発売しましたが、こちらも発禁処分となりました。

35,000枚もの予約注文があったため、ザ・フーは急遽「サークルズ」を含まないシングルを制作。タルミーを揶揄するインストゥルメンタル曲「ワルツ・フォー・ザ・ピッグ」をB面に収録し、3月14日に発売しました。この曲は、スティグウッドがマネージメントしていたグレアム・ボンド・オーガニゼーション（GBO）が演奏したもので、ザ・フーのメンバーは関与していません。

このように、「恋のピンチ・ヒッター」のシングルは、イギリスで3つのバージョンが存在することになりました。様々なトラブルに見舞われながらも、最終的に全英5位というヒットを記録。アメリカでもB面に「ワルツ・フォー・ザ・ピッグ」を収録したシングルが発売されましたが、チャートインはしませんでした。

タルミーとの確執

タルミーは、「恋のピンチ・ヒッター」も自身がプロデュースしたと主張しています。さらに、ザ・フーに対抗するため、自身がプロデュースしたアルバム『マイ・ジェネレーション』から無許可でシングルを連発。「リーガル・マター」（法的問題）、「ザ・キッズ・アー・オールライト」、「ラ・ラ・ラ・ライズ」などを発売しましたが、いずれも上位には届きませんでした。

「恋のピンチ・ヒッター」は、ザ・フーにとって、様々な苦難を乗り越えて生まれた、まさに「ピンチ・ヒッター」的な存在の楽曲と言えるでしょう。


*Substitute - The Who(外部リンク参照)

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