キッズ・アー・オールライト

『キッズ・アー・オールライト』：ザ・フーの軌跡を辿るドキュメンタリー

『キッズ・アー・オールライト』は、イギリスの伝説的ロックバンド、ザ・フーのドキュメンタリー映画であり、1979年に公開されました。ジェフ・スタインが監督を務め、タイトルはザ・フーの同名楽曲から取られています。

概要

この映画は、ザ・フーがデビューした1964年から、メンバーのキース・ムーンが亡くなる直前の1978年までの映像をまとめたものです。ライブパフォーマンス、プロモーションビデオ、テレビ出演シーンなど、貴重な記録映像が満載です。MTVの登場や家庭用ビデオデッキの普及前という時代背景もあり、当時のファンにとってはまさに宝物のような作品でした。

特に、幻の企画であった「ロックンロール・サーカス」からの映像が一部発掘されたことは、大きな話題となりました。監督のジェフ・スタインは、11歳の頃からザ・フーの熱狂的なファンであり、映画製作開始当時は22歳という若さでした。彼はその後、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズやビリー・アイドルのプロモーションビデオも手掛けています。音楽監督はジョン・エントウィッスルが担当しました。

ピート・タウンゼントは、本作に対して「当時の自分たちの本当の姿を描いていない」と否定的な見解を示していますが、ザ・フーというバンドを理解する上で最も重要な作品として、ファンの間では広く愛されています。

制作の舞台裏

ジェフ・スタインが最初にザ・フーに伝記映画の制作を提案したのは1975年3月でした。彼は以前にも、許可を得てザ・フーのステージを撮影し、その写真が1973年に書籍として出版されています。1976年、スタインはメンバーへのプレゼンテーションとして17分間の宣伝フィルムを制作し、高評価を得て正式に制作が決定しました。

スタインは、タウンゼントから「このプロジェクトを進めるにあたり直面するだろうあらゆる狂気に耐えられるなら、俺がお前をバックアップしてやろう」という言葉を受けたと明かしています。スタインにとってタウンゼントは「よき理解者であり、黒幕であり、魔法使い」のような存在でした。

スタインには30万ポンドの制作費と48週間の制作期間が与えられました。最初の数週間は、ロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルスに保管された映像の捜索に費やされました。スタイン自身も資金調達に奔走し、出資の見込みがある人物には誰にでも会いに行きました。時には、横柄なエージェントから罵倒されることもあったそうです。

「ロックンロール・サーカス」からの映像は、タウンゼントやローリング・ストーンズのミック・ジャガーの尽力により、ザ・フーの出演シーンのみ救出することができました。

1977年7月20日、撮影が開始されました。8月からはアメリカに渡り、キース・ムーンのシーンを中心に撮影が行われました。そこでは、ムーンがSM嬢に鞭で叩かれながらインタビューを受けるシーンや、親友のリンゴ・スターと語り合うシーンなどが撮影されました。

しかし、撮影された素材には使い物にならないものが多く、スタインはタウンゼントにライブを依頼しますが、タウンゼントは難聴の悪化とムーンの体調不良を理由に難色を示します。最終的には、12月15日にロンドンのゴーモント・ステート・シネマで観客を入れたコンサートが行われましたが、演奏は不調で、ほとんど使用されませんでした。

1978年1月には、ジョン・エントウィッスルの自宅で撮影が行われました。同年5月25日には、シェパートンBスタジオで再び観客を入れたライブ撮影が行われました。当初は3曲のみ演奏予定でしたが、観客のために非公式ライブが行われました。この時もムーンの体調は優れず、「無法の世界」は1テイク目が上手くいきませんでしたが、再演奏したテイクが映画に使用されました。そして、これがムーン最後のステージとなりました。

映画はほぼ完成しましたが、ムーンは公開を待たずに9月7日に亡くなりました。

内容

映画には、数々の貴重なコンサート映像やテレビ出演映像、プロモーションビデオが収録されています。また、映画オリジナルの映像として、メンバーのミーティングシーンや、キース・ムーンへのインタビューなども収録されています。

ソフト化

1982年にVHSが発売され、2004年には映像・音声を修復し、特典映像を追加した2枚組DVD「ディレクターズ・カット完全版」がリリースされました。2010年にはブルーレイ版も発売されています。

2008年には、映画用に撮影されたもののほとんど使用されなかった1977年12月のキルバーンでのライブを全編収録したDVD『The Who at Kilburn: 1977』がリリースされています。

『キッズ・アー・オールライト』は、ザ・フーの魅力を余すところなく伝える、ファン必見のドキュメンタリー映画です。

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