恐喝者

『恐喝者』

松本清張の短編小説『恐喝者』は、1954年に『オール讀物』に初めて掲載され、1955年に短編集『悪魔にもとめる女』に収録されました。元のタイトルである『脅喝者』は、作品のテーマに深く関わっています。この短編は、松本清張の卓越した心理描写と緊迫感あふれるストーリー展開が特徴的で、文学作品としての評価も高いものです。

最初にあらすじを紹介します。この物語は、筑後川の堤防が大雨の影響で決壊する場面から始まります。この災害の影響で、近くの刑務所に服役していた尾村凌太は、臨場感あふれる濁流の中で脱走を決意します。逃げる中で、彼は一軒の家にたどり着き、そこで逃げおくれた若い女性と出会います。家が崩れそうになる中、凌太は彼女を抱え再び濁流の中に飛び込みます。

岸に到達した後、凌太は意識を失った女性に人工呼吸を施しますが、彼女は凌太に助けられたのではなく、逆に犯されたと誤解してしまいます。この誤解が物語の核心となります。その後1年が経過し、凌太は九州の山奥でダム工事の作業員として働いていますが、そこで出会った新しい工事監督の傍らには、あの時の女性がいることに気づくのです。この再会が引き起こすドラマは、作品を一層引き立てています。

また、作品は多くのメディアに取り上げられており、特に1960年代から90年代にかけて3度のテレビドラマ化が実現しました。

テレビドラマ化の歴史

1960年版

1960年8月に放送されたこのドラマは、KRテレビの「ナショナル ゴールデン・アワー」で2回にわたって放映され、キャストには津島恵子や小野良などが名を連ねました。制作はKRテレビにより行われました。

1962年版

次に1962年には、テレビ朝日系列で「指名手配」の枠内で2回にわたって放送されました。このバージョンのキャストには、扇千景や坂東鶴之助が出演し、視聴者に強い印象を残しました。

1997年版

最も注目されたのは1997年に放送された「松本清張スペシャル・恐喝者」です。日本テレビ系列の「火曜サスペンス劇場」で放送され、大洪水シーンにおけるCG技術の使用が特に話題となり、その技術は当時の日本のテレビドラマとしては先進的でした。視聴率は17.0％を記録し、視聴者に大きなインパクトを与えました。出演には古谷一行や藤真利子などの有名な俳優が名を連ね、制作陣も優れたメンバーで構成されていました。

『恐喝者』の強い点は、心理的緊張感と、キャラクターたちの複雑な人間関係にあります。松本清張が描き出す人物たちは、常に何かを抱えながら生きる現代人の姿を反映しており、その点で多くの読者に共感を呼びかけています。物語の結末はやや暗い印象を残しますが、それが逆に人々に強い印象を与え続けているのです。運命に翻弄される人々の姿を通じて、清張は深い人間洞察を提供しています。

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