息 (春秋)

息（そく）は、周代に存在した諸侯国の一つで、鄎とも記されます。爵位は侯爵であり、国君は姫姓を名乗っていました。春秋時代初期、楚の文王によって滅亡させられ、その領土は楚の県として組み込まれることになります。

歴史

紀元前712年、息は鄭を討伐するという行動に出ます。当時の鄭は、荘公の指導のもと、宋や衛といった大国を打ち破るほどの勢いを持っていました。そのため、息の軍勢は手痛い敗北を喫することになります。『春秋左氏伝』隠公十一年には、この息の出兵に対する評価として、息軍の自信過剰を批判する記述が見られます。一方、童書業の研究によれば、息が当時単独で鄭に挑んだという事実から、その軍事力は決して侮るべきものではなかったと評価されています。

紀元前684年、蔡の哀侯が息侯の夫人である息嬀（そくき）に対して非礼な行為に及んだことがきっかけとなり、息侯は激怒します。息侯は楚に偽って、自国を攻撃するように進言し、援軍としてやってきた蔡を撃退する計略を立てます。楚の文王はこれに同意し、蔡軍は大敗を喫し、蔡の哀侯は捕虜となってしまいます。しかし、蔡の哀侯はこれを深く恨み、楚の文王に息嬀が絶世の美人であると吹き込みました。この言葉に興味を持った楚の文王は、息を滅ぼし、息嬀を自らの妻としました。息嬀は楚の文王との間に、堵敖（とごう）と成王という二人の子をもうけます。楚の文王は息嬀を深く寵愛し、紀元前680年には蔡を討伐しています。『春秋左氏伝』荘公十七年には、楚の文王が「実県申息（じつけんしんそく）」、つまり息を滅ぼして県を設置したと明確に記されています。

この出来事から、息という国は、その美貌によって国を滅ぼしてしまった息嬀と、楚という大国の勢力争いの中で、その歴史に幕を閉じることとなったと言えるでしょう。

脚注

この文章は、以下の資料を参考に作成されました。

参考資料

楊伯峻《春秋左伝注》ISBN 7101002625
* 童書業《春秋左伝研究》ISBN 7101051448

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