患者憲章

患者憲章：患者の権利と責務を守る指針

患者憲章とは、患者の権利と医療従事者の責務を明確に示した公式文書です。イギリス政府が1991年に初めて導入し、その後、世界各国で同様の憲章制定のモデルとなりました。国民皆保険制度における患者の権利保護を目的とし、医療サービスを受ける際の権利や、医療従事者への期待、患者の責任などを具体的に規定しています。

イギリスにおける患者憲章

イギリスでは、国民健康サービス（NHS）を受ける患者の権利を保障するために、患者憲章が制定されました。当初の憲章は、その後、1995年と1997年に改訂され、一般診療、病院治療、地域医療、救急医療、歯科、眼科、薬局、産科医療など、幅広い医療サービス分野における患者の権利を網羅していました。

患者憲章は、患者の権利を明確にすることで、医療提供の質の向上と、患者と医療従事者間の良好な関係構築に貢献することを目指していました。具体的には、患者の意思決定への参加、情報提供、苦情申立ての権利などが保障されました。

しかし、2000年には憲章の内容が補完され、その後、2013年には『NHS憲章（NHS Constitution）』として法制化され、患者憲章は廃止されました。NHS憲章は、患者憲章の内容をさらに発展させ、法的な拘束力を持ち、より強固な患者の権利保護を実現しています。

各国における患者憲章

イギリスの患者憲章は、世界各国において、同様の憲章制定のインスピレーションとなりました。多くの国が、自国の医療制度や文化に合わせた患者憲章を制定し、患者の権利保護を推進しています。これらの憲章は、患者の権利の尊重、情報提供の充実、医療サービスの質の向上などを目的としており、内容や法的拘束力は国によって異なります。

日本における患者の権利

日本においては、イギリスのような包括的な患者憲章は存在しません。患者の権利に関する法律も整備されておらず、患者の権利保護は、医療法、医師法、薬事法などの関連法規や、医療機関の内部規定、医療倫理などに基づいて行われています。

日本弁護士連合会（日弁連）は、患者の権利に関する法律の制定を長年訴えてきました。日弁連は、患者の権利は基本的人権であるにもかかわらず、それを定めた法律がないことを問題視し、患者の権利に関する法制化の必要性を訴えています。特に、インフォームド・コンセント（説明と同意）の重要性を強調し、患者の意思決定への参加を促進する法的枠組みの構築を求めています。

患者の権利に関する議論は、医療現場における倫理的な課題や、患者と医療提供者間の良好なコミュニケーションの必要性を改めて認識させるものです。今後、日本においても、患者の権利をより明確に規定する法律の制定や、患者憲章に相当する文書の作成が進むことが期待されます。

患者の権利宣言（リスボン宣言）

患者の権利に関する国際的な合意として、リスボン宣言があります。これは、世界保健機関（WHO）が策定した患者の権利宣言であり、患者の権利を普遍的なものとして捉えています。

この宣言は、患者の尊厳、自己決定権、情報へのアクセス権、プライバシー保護など、患者の基本的な権利を保障するものであり、世界各国の患者憲章や関連法規の制定に大きな影響を与えています。日本においても、リスボン宣言の理念は、患者の権利保護の議論において重要な役割を果たしています。

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