悦ちゃん (子役)

悦ちゃん：昭和初期を彩った天才子役の軌跡

1926年、東京に生まれた江島瑠美さんは、のちに国民的子役スター「悦ちゃん」として人々の記憶に刻まれることになります。画家である父を持つ彼女は、10歳の時、日活多摩川撮影所の映画『悦ちゃん』のオーディションに応募。見事主演に抜擢され、この作品が彼女の芸能人生の始まりとなりました。

映画『悦ちゃん』は、たちまち大ヒット。当時ハリウッドで人気を博していたシャーリー・テンプルになぞらえ、「和製テンプルちゃん」と呼ばれ、瞬く間に国民的スターとなりました。愛くるしい容姿と高い演技力で、多くの観客を魅了したのです。

日活時代には、『悦ちゃん』シリーズを始め、『まごころ万才』『忠臣蔵』など数々の作品に出演。その活躍は日活多摩川撮影所にとどまらず、京都撮影所作品にも参加するなど、多岐に渡りました。子供ながら、時代劇から現代劇まで、幅広い役柄をこなし、その演技力は高く評価されていました。

1939年には東宝映画に移籍。東宝でも『エノケンの鞍馬天狗』『ロッパの子守唄』など話題作に出演し、その人気は不動のものとなりました。しかし、15歳になった1941年、突如として映画界から引退します。

引退の理由は公表されておらず、その後の消息も長く不明なままでした。しかし、書籍『ゴシップ10年史』では、1958年の日米合作映画『黒船』にキャスティング・ディレクターとして携わっていたという記述が見られます。映画界を離れてからも、映画制作に携わっていた可能性を示唆する貴重な情報と言えるでしょう。

悦ちゃんの活躍は、日本の映画史において重要な足跡を残しました。彼女の存在は、昭和初期の映画界を彩る重要なピースであり、現在でも多くのファンから愛され続けている、まさに時代を駆け抜けたスターだったと言えるでしょう。

フィルモグラフィー

1937年 日活多摩川撮影所

『悦ちゃん』（原作：獅子文六）
『悦ちゃん乗り出す』
『悦ちゃんの涙』
『悦ちゃんの千人針』

1938年 日活多摩川撮影所 / 日活京都撮影所

『まごころ万才』
『忠臣蔵 地の巻』
『忠臣蔵 天の巻』
『悦ちゃん部隊』
『悦ちゃん万才』
『弥次㐂夛道中記』

1939年 東宝映画東京撮影所

『エノケンの鞍馬天狗』
『ロッパの子守唄』
『まごころ』
『白蘭の歌 前篇』
『白蘭の歌 後篇』

1940年 東宝映画東京撮影所 / 南旺映画

『お転婆社長』
* 『煉瓦女工』（検閲のため戦後公開、配給松竹、1946年）

謎に包まれた晩年

15歳での引退後、彼女の消息は長く謎に包まれていました。わずかに残された情報から、彼女のその後の人生を想像するしかありません。しかし、彼女が残した輝かしい実績と、多くの人々の記憶の中に生き続ける存在感は、今もなお、私たちの心を捉えて離しません。

彼女の生涯は、華々しい成功と、謎に満ちた晩年という、対照的な二面性を持っています。この二面性が、かえって悦ちゃんという存在を、より魅力的にしているのかもしれません。

今後も、新たな情報が発見されることを期待しつつ、昭和初期を彩った天才子役、悦ちゃんの生涯を、これからも語り継いでいきたいものです。

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