悪玉姫

悪玉姫（あくたまひめ）

悪玉姫は、田村語りや坂上田村麻呂にまつわる伝説的な人物であり、様々な文献や地域伝説にその名が登場します。文献では「悪玉」や「悪玉御前」とも記録されており、異なる表記に対応した地方伝説が存在します。彼女は千熊丸を産む存在であり、坂上田村麻呂の母や妻として位置づけられています。

概要

坂上田村麻呂の母については歴史的な記録が不明確ですが、彼の妻に関する伝説では清水寺縁起に登場する高子という名前が残っています。室町時代には京都で成立した御伽草子『田村の草子』において、悪玉姫に類似した存在も描かれていますが、そこでの具体的な名前は登場しませんでした。一方、不安定な時代背景の中で成立した江戸時代の奥浄瑠璃『田村三代記』では、悪玉姫に関するエピソードが具体的に展開され、田村利光との結婚が描かれるなど、物語の中で彼女の存在が強調されています。

この『田村三代記』は、物語の構造を三つの群に分けており、第一群では悪路王の捜索が主題となっており、次第に「悪玉との契り」というテーマが浮かび上がります。第二群では、将軍の巻狩や神社の縁起が加わることで物語が複雑化し、悪玉姫の重要性が増していきます。第三群ではさらに多様な要素が加わることで、地域文化や神話が融合していく様子が描かれています。

地方伝説

悪玉姫に関する伝説は、主に東北地方で語られており、特に岩手県や宮城県を中心に多くの伝承が存在しています。岩手県の紫波町赤沢では、飽玉伝説が語られています。また、宮城県の石巻市湊にある零羊崎神社には悪玉御前の木像が祀られ、地元の信仰の対象とされています。さらに、利府町の赤沼明神からは、悪玉姫が千熊丸を出産したという逸話が語られています。このように、悪玉姫にまつわる物語は地域ごとに異なりつつも、彼女の存在が数多くの神社や地名に刻まれています。

解説

悪玉姫の存在は、柳田国男の考察により、立烏帽子の亜流であるとされ、神変に通じる女性として位置づけられています。また、堀一郎は、田村と立烏帽子が山神神話に由来し、登場人物たちの物語を通じて古代伝説の形態が展開されていると論じています。これに対し、阿部幹男は、悪玉姫の伝説が巫女や山神の形や機能を持ち、民間信仰と神話が融合した結果であるとしています。

悪玉姫は、坂上田村麻呂の物語において重要な役割を果たし、「奥州誕生説」として彼女の伝説が受け継がれています。このように、悪玉姫は単なる伝説の一部ではなく、地域文化や信仰の中に深く根ざした存在であると言えるでしょう。

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