悲劇の一週間

悲劇の一週間：スペインのカタルーニャを揺るがせた7日間の騒乱

1909年7月25日から8月2日にかけて、スペインのカタルーニャ地方バルセロナを中心に、政府と労働者階級が激しく衝突した「悲劇の一週間（Semana Trágica）」が発生しました。この事件は、スペインの植民地政策、社会的不平等、そして教会の権威への反発が複雑に絡み合った結果引き起こされた大規模な社会運動であり、スペイン近代史における重要な転換点となりました。

背景：不安定なスペイン社会とカタルーニャのナショナリズム

1902年、アルフォンソ13世の親政開始以降、スペインは1898年の米西戦争でのキューバとプエルトリコの喪失から回復しつつありました。しかし、保守党と自由党の二大政党制は、地方有力者（カシーケ）による選挙操作（カシキスモ）によって歪められており、政治的安定は脆いものでした。

カタルーニャ地方では、ナショナリスト政党「ソリダリダー・カタルーニャ」と共和主義政党が勢力を競っていました。1907年の選挙ではソリダリダー・カタルーニャが圧勝しましたが、労働者階級の不満は高まっていました。特にバルセロナでは、社会主義者、アナーキスト、共和主義者が共存する労働組合「ソリダリダー・オブレーラ」が、保守的なソリダリダー・カタルーニャに対抗勢力として台頭していました。

発端：モロッコ戦争と徴兵への反発

スペインは北アフリカ、モロッコへの進出を強めており、1909年には鉄道建設に従事するスペイン人労働者に対する地元部族の襲撃が発生。これをきっかけに、スペインとモロッコの戦争が拡大しました。マウラ首相率いる保守政権は、モロッコへの増兵のため予備役の動員を決定しましたが、高額な兵役免除金を支払えない労働者階級からは強い反発を招きました。これは、当時のスペイン社会における著しい経済格差を反映していました。

7月18日、バルセロナ港からモロッコへの派遣団が出発する予定でしたが、モロッコでの戦闘でスペイン兵の犠牲者が出たという知らせが届き、社会の緊張は最高潮に達しました。マドリードではゼネラルストライキが予定されていましたが、バルセロナのソリダリダー・オブレーラは7月26日に24時間ストライキを決定しました。

蜂起と拡大：反戦から反教会へ

7月26日、バルセロナを始めとするカタルーニャ各地でゼネストが始まりました。当初は反戦を訴えていたストライキは、7月27日、モロッコでの戦闘で多くのスペイン兵が戦死したという知らせを受け、激しさを増していきます。反戦デモは次第に反教会運動へと転化し、教会、修道院、ブルジョワ階級の邸宅が襲撃・放火される事態となりました。

この反教会運動の背景には、教会が保守的な政治体制やブルジョワ階級と結びついているという労働者階級の認識がありました。教会が運営する学校や病院への不信感、そして教会が労働運動やアナーキズム運動に反対しているという見方が、反教会感情を煽りました。

バルセロナは事実上の戦争状態となり、戒厳令が敷かれました。軍隊は労働者への弾圧を強め、市街地では激しい戦闘が繰り広げられました。ストライキ委員会は暴徒を制御できなくなり、7月28日には暴動は頂点に達しました。

鎮圧とその後：弾圧と政治的転換

7月29日以降、ストライキは次第に鎮圧されていきました。政府はバルセロナを孤立させ、暴動を分離主義者によるものと宣伝しました。増援部隊が到着し、徹底的な弾圧が始まりました。

悲劇の一週間の結果、多数の死者・負傷者が出ました。マウラ政権は厳格な弾圧を行い、多くの労働者が逮捕・投獄され、死刑判決を受けた者もいました。この弾圧は、国内外で大きな批判を呼びました。最終的に、アルフォンソ13世はマウラ首相を更迭し、自由主義者のセギスムンド・モレトを新たな首相に任命しました。

悲劇の一週間は、スペイン社会の深い矛盾と、労働者階級の不満が爆発した事件でした。この事件は、スペインの政治、社会、そして教会の構造に大きな影響を与え、その後のスペイン史において重要な転換点となりました。

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