惑星大怪獣ネガドン

2005年にCG映像工房「スタジオマガラ」によって製作・公開された特撮短編映画です。原作・脚本・監督を務めたのは粟津順氏。本作は、世界で初めて全編をコンピューターグラフィックス（CG）のみで製作された本格的な怪獣映画として特筆されます。

制作背景と特徴

日本の特撮文化、特に怪獣映画という独自のジャンルに深く敬意を表しつつ、従来の特撮手法とは一線を画し、実写映像を一切使用せず全てCGで表現されています。「すべての人類が楽しめる娯楽映像作品」を目指し、CGでありながらも昭和時代の特撮作品が持つ手作り感やフィルムの質感を再現するため、監督自らが「粟津フィルター」という独自の技術を開発・適用しました。作品の舞台設定である「昭和百年」というレトロフューチャーな世界観も特徴の一つです。

本作は自主制作作品であり、上映時間は約25分と短編ながら、その完成度の高さは各方面で評価されました。東京国際ファンタスティック映画祭での上映に加え、第20回デジタルコンテンツグランプリのデジタルコンテンツ部門で優秀賞を受賞、さらに第9回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門では短編審査委員会推薦作品に選出されています。監督の粟津順氏は、映像プロダクションでCGデザイナーとして活動していましたが、自身の創作意欲を追求するため会社を辞め、約2年4ヶ月をかけて本作をほぼ一人で完成させたという、情熱的なエピソードも持ち合わせています。

ストーリー

物語の舞台は「昭和百年」。近未来でありながら、どこか懐かしい昭和の面影を残すもう一つの日本です。世界人口が100億人を超え、国際火星開発機構（IMDO）による大規模な宇宙開発事業「火星テラフォーミング計画」が進行する中、火星からの帰還途中にあった宇宙輸送船「いざなみ」が東京上空で爆発・墜落します。船内に積載されていたのは、火星で発掘された未知の宇宙怪獣ネガドンでした。

ネガドンは東京上空に現れ、街を蹂躨し始めます。都民が緊急疎開し無人となった東京で、テレビ中継されるネガドンの破壊行為を目の当たりにする一人の男がいました。彼は、10年前の事故で愛娘・恵美を失い、世を捨てて隠遁していた伝説的なロボット工学の権威、楢崎龍一です。

娘との「ロボットが人類のために活躍する未来を創る」という約束を果たすため、楢崎は密かに建造していた未完成の人間型汎用歩行重機「MI-6二号試作機」に乗り込み、ネガドンに立ち向かう決意をします。防衛軍の吉澤政次は、ネガドンの前に立ちはだかった巨大ロボットが、かつての恩師である楢崎の開発したMI-6であることを悟り、必死に連絡を取って彼を引き止めようとしますが、既に覚悟を決めた楢崎は、吉澤に避難を促し通信を絶ちます。ここに、巨大ロボットと宇宙怪獣による壮絶な死闘の火蓋が切られたのです。

登場怪獣・メカニック

本作に登場する主要な怪獣とメカニックは以下の通りです。

惑星大怪獣ネガドン
全高：100メートル、体重：3万トン。火星の地下に眠っていた古代の宇宙怪獣。火星テラフォーミング計画による熱核爆弾の影響で覚醒し、地球に運ばれてきました。
ダイヤモンドの約30倍という驚異的な硬度を持つ超硬質外骨格に覆われた褐色のクラゲのような姿をしています。飛行能力を持ち、反重力殺人光線、ネガドニューム殺人熱弦、プラネット殺人大電離球といった強力な光線技や、全身を覆うバリアを展開する能力を持ちます。防衛軍の攻撃を寄せ付けない圧倒的な力を見せつけます。
MI-6（ミロク）二号試作機
身長：50メートル、体重：2万トン。楢崎龍一が開発した世界最大の人間型汎用歩行重機（巨大ロボット）です。動力源は高出力の核融合動力炉。地上、海、宇宙など多様な環境での活動を想定して設計されました。
右腕にはダイヤモンドの30倍の硬度を持つ超硬質超合金ドリルを、左腕にはロケットハンドを装備。ドリルはネガドンの攻撃を弾くことも可能です。腕部や脚部は分離も可能。背部の大型エンジンにより短時間の飛行や、大気圏離脱、宇宙空間での活動もこなします。劇中では東京湾内のカタパルトから出撃しました。
いざなみ
日本籍の原子力宇宙貨物船（型式番号MI-5II）。火星からの地下資源輸送のために建造されましたが、ネガドンを輸送中に船内の異常高温により爆発・墜落し、ネガドン出現の原因となります。
HHF-1
IMDOが燃料補給などのために建造した、リング型居住区画を持つ大規模な宇宙ステーションです。
かぐつち
火星テラフォーミング計画のために開発された爆弾投下衛星。火星の極冠に熱核爆弾を投下し、氷を融解させる役割を果たしました。
実在兵器
防衛軍の主力戦闘機F-104J スターファイター、主力戦車 74式戦車、地対地ロケット弾MGR-1 オネスト・ジョンなどがネガドン迎撃に出動しましたが、その効果は限定的でした。

本作は、CG技術の進化が生んだ新たな怪獣映画の可能性を示す作品として、その後のCGクリエイターや特撮ファンに大きな影響を与えました。昭和特撮へのリスペクトと最新技術の融合が見事に結実した一作と言えるでしょう。

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