愛と怒り

『愛と怒り』(1969年)は、イタリアとフランスが共同制作したオムニバス映画です。5人の監督がそれぞれ異なる短編を手がけ、多様な視点と表現方法で構成された作品となっています。

この映画は、当初1969年の第19回ベルリン国際映画祭で『福音書'70』というタイトルで上映されました。その際の中核をなしていたのは、カルロ・リッツァーニ、ベルナルド・ベルトルッチ、ピエル・パオロ・パゾリーニの3監督による3つのエピソードです。リッツァーニとベルトルッチのエピソードは、それぞれ「善良なサマリア人」と「実のならないイチジクの木」という寓話に基づいて制作されました。パゾリーニのエピソードは、現代社会における恐怖と無実の罪悪感というテーマを扱っています。これらの3つのエピソードは、ヴァレリオ・ズルリーニ監督の『右曲がりの土曜日』(日本未公開)とともに、『福音書'70』の原型となりました。

しかし、後の段階で『福音書'70』プロジェクトは変更され、『右曲がりの土曜日』は長編映画として独立制作されることになります。その代わりに、ジャン＝リュック・ゴダールとマルコ・ベロッキオの2人の監督による短編が『愛と怒り』に加えられました。

ゴダールのエピソード『放蕩息子たちの出発と帰還』は、民主主義と革命の両立不可能性をテーマにした物語です。劇中では、登場人物の女性2人がフランス語、男性2人がイタリア語を話すという設定になっていますが、言語の壁を越えて理解できるよう工夫されています。

一方、ベロッキオのエピソード『議論しよう、議論しよう』は、大学占拠中の革命派と非革命派の対立を弁証法的に描いた作品です。

このように、『愛と怒り』は、それぞれの監督の個性と独自の表現が際立つ5つの短編から構成されています。それぞれのエピソードは独立した物語でありながら、全体として現代社会の矛盾や葛藤を鋭くえぐり出すオムニバス作品となっています。多様な視点と手法により、観客に様々な解釈を促す、複雑で魅力的な映画と言えるでしょう。

各エピソードの監督と題名は以下の通りです。

無関心 (L'indifferenza) - カルロ・リッツァーニ監督
臨終 (Agonia) - ベルナルド・ベルトルッチ監督
造花の情景 (La sequenza del fiore di carta) - ピエル・パオロ・パゾリーニ監督
放蕩息子たちの出発と帰還 (L'amore) - ジャン＝リュック・ゴダール監督
* 議論しよう、議論しよう (Discutiamo, discutiamo) - マルコ・ベロッキオ監督

これらの監督陣は、それぞれイタリア映画界を代表する巨匠たちであり、彼らの才能が凝縮された作品として、『愛と怒り』は高い評価を受けています。現代社会への痛烈な批評と、実験的な映像表現、そしてそれぞれの監督の個性あふれる演出は、今もなお多くの映画ファンを魅了し続けています。

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