愛は面影の中に

愛は面影の中に

「愛は面影の中に」（The First Time Ever I Saw Your Face）は、英国のシンガーソングライター、イーワン・マッコールによって作詞作曲された楽曲です。1960年代に多くのフォークグループによって歌われ、その後、ロバータ・フラックが1972年にシングルとしてリリースしたバージョンが大ヒットしました。この曲は、同年のビルボード年間チャートで1位を獲得するほどの成功を収めました。

成立の経緯

この曲が書かれたのは1957年で、成立の経緯については二つの説があります。

イーワン・マッコール説: 当時恋人だったアメリカのフォークシンガー、ペギー・シーガー（ピート・シーガーの異母妹）に依頼され、彼女のために書き下ろした曲であるとされています。マッコールは電話を通じてシーガーに曲を伝えたとされています。
ペギー・シーガー説: マッコールは二人が離れている間、自作の曲をテープに録音して頻繁にシーガーに送っており、「愛は面影の中に」もその中の一曲だったとシーガーは記憶しています。

シーガーのバージョンは1962年のアルバム『The New Briton Gazette Volume 2』に収録されています。1960年代には、多くのフォークグループによってカバーされましたが、タイトルは「The First Time」や「The First Time Ever」など、一定ではありませんでした。

ロバータ・フラックのバージョン

ロバータ・フラックは、ジョー&エディーのバージョン（1963年のアルバム『Coast to Coast』に収録）を通じてこの曲を知りました。フラックは、ワシントンD.C.のバネカー高校で音楽教師としてグリークラブを指導していた際に、女子生徒たちにこの曲を教え、自身もペンシルベニア大通りのクラブ「ミスター・ヘンリーズ」で歌っていました。それは1968年のことでした。

フラックは後にアトランティック・レコードと契約し、デビュー・アルバムの制作のために1969年2月24日から26日にかけて、ニューヨークのアトランティック・スタジオでレコーディングを行いました。この時録音されたバージョンは5分22秒と長く、プロデューサーのジョエル・ドーンから再録音を提案されましたが、フラックは最終的に作り直すことを拒否しました。同年6月20日にアルバム『First Take』に収録されました。

1971年のある日、クリント・イーストウッドからフラックの自宅に電話がかかってきました。イーストウッドは、ロサンゼルスのフリーウェイを運転中にラジオでフラックの歌う「愛は面影の中に」を聴き、感銘を受けました。そして、監督する映画にこの曲を使用したいと申し出ました。映画の中で愛を描いた唯一の場面でこの曲を使いたいと伝えました。フラックが了承すると、イーストウッドは2000ドルの使用料を提示しました。フラックがテンポが遅すぎるので、もう一度録り直したいと伝えるとイーストウッドは「いや、そんなことはない」と答えたとされています。

イーストウッドの初監督映画『恐怖のメロディ』は同年11月12日に公開され、「愛は面影の中に」は、イーストウッドと恋人役のドナ・ミルズが愛し合うシーンで使用されました。

アトランティック・レコードは1972年1月24日に、1分ほど短縮したバージョンをシングルA面として発売しました。B面にはアルバム未収録の「トレイド・ウィンド（Trade Winds）」が選ばれました。同年4月15日から5月20日にかけて6週連続でビルボード・Hot 100の1位を記録し、イージーリスニング・チャートでも1位を獲得しました。そして、1972年のビルボード年間チャートの1位を獲得し、第15回グラミー賞の最優秀レコード賞と最優秀楽曲賞を受賞しました。

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