愛国社 (1928年-)

愛国社(あいこくしゃ)



愛国社は、昭和初期の日本において活動を展開した主要な右翼団体の一つである。昭和3年(1928年)、岩田愛之助によって設立されたこの団体は、当時の右翼界で重きをなしていた内田良平の後ろ盾を得て活動を開始した。機関紙として『愛国新聞』を昭和7年(1932年)に創刊し、自らの主張や活動内容を社会に広く伝えるための媒体とした。

活動理念と綱領



愛国社の活動の根本には、明瞭な綱領があった。その主要な目的は以下の二点に集約される。

1. 中国や満州に関わる諸問題と、共産主義などの思想問題に対する徹底した研究を行い、これらの問題発生時には創立者の会議を経て様々な運動を展開すること。
2. この研究に基づき、中国大陸への積極的な政策の遂行を目指すこと、そして思想問題の研究を深めること。

これは、当時の日本の政治において喫緊の課題であった大陸政策の推進と、国内における左翼思想の拡大に対する強い危機感を反映したものであった。

具体的な運動



愛国社は、その綱領に沿って多様な運動を行った。政権批判としては、田中義一内閣の打倒を目指した活動に関与したことが挙げられる。また、社会運動としては、農村地域における青年層に対して、愛国思想に基づく実践的な教育を施す活動を行った。さらに、将来を担う世代への影響力拡大を図るべく、各大学内に存在する共産主義思想に対抗するための右翼学生組織の結成や組織化を企図するなど、学生運動にも積極的に関与しようとした。

日本の政治史に刻まれた事件



愛国社の名が広く世間に知れ渡る決定的な出来事となったのは、昭和5年(1930年)11月14日に東京駅で発生した浜口雄幸首相狙撃事件である。この事件は、当時の日本が国際社会との間で締結したロンドン海軍軍縮条約を巡り、政府と軍部が憲法上の権限解釈で激しく対立した、いわゆる「統帥権干犯問題」という政治的緊張が高まる中で起きた。愛国社の社員であった佐郷屋留雄は、この条約締結を主導した立憲民政党総裁であり首相であった浜口雄幸に対し、統帥権を侵犯したとして強い反感を抱いていた。佐郷屋は東京駅で浜口首相に発砲し、重傷を負わせた。浜口首相は一時回復の兆しを見せたものの、この時の傷が原因で翌年の昭和6年(1931年)8月に死去した。この事件は、昭和初期の政治状況における右翼団体の過激な行動とその影響力を示す象徴的な出来事として、日本の近代政治史に深く刻まれることとなった。

その後の展開と青年組織



浜口首相狙撃事件後も活動を続けた愛国社は、やがて他の右翼団体との連携を強め、大日本生産党の結成に参加し、その主要な構成団体の一つとなった。また、愛国社には「愛国社青年連盟」と呼ばれる独自の青年組織が存在した。「愛連」あるいは「浅草愛連」とも通称されたこの組織は、戦前の日本のファシズム運動の一端を担う形で活動した。戦後に入っても、当時の団長であった大沢武三郎は右翼界の有力者として知られ、「愛国社青年連盟」は反共産主義を掲げる暴力団としてその名前が挙がるなど、戦後社会においても何らかの影響力を保持していたことが伺える。

愛国社およびその青年組織の活動は、昭和初期から戦後にかけての日本の右翼運動の変遷を示す一例と言えるだろう。

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