感傷旅行

『感傷旅行』について

田辺聖子による短編小説『感傷旅行』は、1963年に同人誌『航路』第7号に掲載され、その後第50回芥川賞を受賞した作品です。物語は、37歳の放送作家・有以子、彼女の同業者である22歳の語り手「僕」、そして有以子の新しい恋人ケイとの関係を中心に展開します。

あらすじ

話は8月終わりの真夜中から始まります。有以子が「僕」に電話をかけ、激しい勢いで質問を投げかけてきます。「プレハーノフって何？」「トロツキストは善玉？悪玉？」などといった内容です。彼女はこれまで数々の恋愛経験を持ち、今度の相手であるケイは誠実な肉体労働者で、党員としての立場を持っています。彼はあらゆる政党に対して独自の視点を持ち、革命後の理想社会について語りますが、有以子は彼との新しい恋愛を楽しむ一方、周囲の反応に興味を持っています。

有以子は元々コラムニストで、数年前に放送作家として活躍し始めました。「僕」は彼女と共に様々な仕事をしながら、彼女の気まぐれな性格や親切さに振り回されています。電話の翌日、放送局で再会した彼女は、ケイとの結婚を考えているがまだ寝ていない、と明かします。友人である「僕」は彼女が愛し合っているなら早く寝るべきだとからかうと、有以子は一声「バカ！」と叫びます。

その後、中央公会堂で行われた党の講演会で「僕」はケイと再会し、彼の朴訥さに好感を抱きますが、有以子の過去の恋人であるジャズ歌手のジョニーと出会った際に、ケイは混乱を隠せずにいます。約一週間後、悪天候の中、有以子とケイが「僕」の部屋に押しかけてきます。2人は互いに別れたいと話し合う中、有以子が涙を流し始め、争いながらも和解に至ります。しかし、有以子は「僕」に「今夜どこかに泊まってくれないか」と頼み、彼は衝動的に部屋を飛び出します。

ケイとの結婚話が進むものの、秋になると、有以子が泣きわめく知らせが。「ケイが行方をくらまし、彼女の手紙には別の恋人との関係が綴られていました」再び2人の間の感情が揺れ動く中、最終的に「僕」が有以子と一夜を共に過ごすことになり、翌日には奈良へ古代遺跡を見に行こうと話し合いますが、放送局からの仕事の電話により再び日常に引き戻されます。

評価と背景

この小説は、肉体労働者であるケイと、軽薄なマスコミ人の有以子および「僕」との対比を通じて、人間の虚栄心や欲望を深く描いています。芥川賞の選評では、丹羽文雄が「えたいの知れない、ねつこい」と述べ、石川達三もその軽薄さが独自のスタイルとなっていると評価しています。現代における独身アラフォー女性の位置づけや人間関係の複雑さを見つめる視点は、特に今日的な意義を持っていると指摘されています。

エピソードと影響

作品のタイトルは、ドリス・デイのジャズナンバー「センチメンタル・ジャーニー」に由来しており、一見甘い印象のあるタイトルと、実際のストーリー内容とのギャップが田辺の意図するところです。また、田辺が通っていた大阪文学学校には当時、若い共産党員が多く在籍しており、作品のケイのキャラクターにもその影響が色濃く見られます。田辺自身は、社会が許容するようになった共産党員たちに対して明るい感覚を抱いていたと語っています。

このように『感傷旅行』は、恋愛や人間関係の複雑さを浮き彫りにした文学作品であり、深い人間観察が感じられる名作であります。

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