憾 (瀧廉太郎)

瀧廉太郎のピアノ曲「憾」について

「憾」（うらみ、ドイツ語: Bedauernswerth）は、明治期の作曲家、瀧廉太郎が1903年に作曲したピアノ曲です。この作品は、彼が亡くなる数ヶ月前に作られたもので、瀧廉太郎の短い生涯の中で、西洋音楽の導入に尽力した彼の強い意志が表れているとされています。ピアノ演奏技術に特筆すべき進展は見られないものの、当時の日本の音楽界において、西洋器楽音楽を取り入れようとする先駆的な試みとして評価されています。

この曲は、全音楽譜出版社の『全音ピアノピース』シリーズで販売されていますが、出版譜と自筆譜の間には差異が指摘されています。そのため、ミューズテック音楽出版からは、同じく瀧廉太郎のピアノ曲「メヌエット」とともに校訂版が出版されており、より正確な演奏を求める音楽家にとって重要な資料となっています。

「憾」は、日本人の作曲家によるピアノ独奏作品としては、最も初期のものの一つとされています。瀧廉太郎は、「荒城の月」をはじめとする歌曲でよく知られていますが、この「憾」は、彼が器楽曲という分野にも強い関心を持っていたことを示しています。特に、彼の早すぎる晩年に作曲されたこの作品は、器楽曲を日本に導入しようという強い意欲の表れであると同時に、自身の死を予感していた彼の心情を反映しているとも考えられています。

タイトル「憾」の意味

「憾」という言葉は、一般的には「恨み」や「怨み」といった意味で捉えられがちですが、この曲のタイトルにおける「憾」は、そうした感情ではなく、「遺憾」という言葉に含まれる「心残り」や「未練」「無念」といった意味合いで用いられています。瀧廉太郎はこの曲の自筆譜の余白に「Doctor Doktor」と走り書きを残しており、これは彼自身の若すぎる死を前にした、無念の気持ちを表していると考えられています。自筆譜は、現在、大分県竹田市に寄贈され、保管されています。

楽曲構成と特徴

「憾」は、Allegro marcato（アレグロ・マルカート、急速に、はっきりと）というテンポ指示で、ニ短調、8分の6拍子で書かれています。楽曲構成は、コーダ（終結部）を持つ三部形式です。曲は、左手の和音に乗せて、右手がオクターブで悲劇的な旋律を奏でる形で始まります。中間部では、主部のリズムを保ちながらヘ長調に転調しますが、すぐに主部が再現されます。その後、分散和音を経て半休止し、低音と高音で和音が打ち鳴らされ、最後は低音で悲劇的に終結します。

この曲の書法は簡潔ながら、同じ調性と拍子を持つショパンの「前奏曲第24番」を想起させるとも言われています。演奏時間は約2分と短いながらも、瀧廉太郎の音楽的才能と内面的な感情が凝縮された作品です。

外部リンク

「憾」の楽譜研究 - ウェイバックマシン （2018年11月5日アーカイブ分）
瀧廉太郎－2つのピアノ小品集:「メヌエット」「憾（うらみ）」 - ミューズテック音楽出版
* 演奏動画 - YouTube

「憾」は、瀧廉太郎の音楽的遺産の中でも、特に彼の内面を深く表している作品の一つであり、今日でも多くのピアニストによって演奏され、その音楽的な価値は高く評価されています。

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