懲毖録

『懲毖録』について

『懲毖録』（ちょうひろく）は、17世紀前後に李氏朝鮮の宰相柳成龍によって書かれた史書です。主に文禄・慶長の役に関するもので、韓国における国宝第132号にも指定されています。この書は、日本軍が朝鮮に侵攻する前から、当時の朝鮮朝廷の行動や明国との関係、日本軍との交渉、さらには裏取引に至るまでの詳細を鮮明に記録しています。

概要と背景

文禄・慶長の役は1592年から1598年にかけて起こった日本の侵攻を指します。この時、著者である柳成龍は朝鮮朝廷の高官として重要な役割を果たしていました。彼は侵攻の兆しを敏感に察知し、李舜臣を全羅左道水軍節度使に推薦したものの、金誠一の意見に影響され、日本の侵攻を事前に見抜くことができませんでした。そのため、彼は一時期官職を罷免されましたが、王の身辺を守る白衣従軍として再度重役に任命されました。隠居後、柳成龍は『懲毖録』を執筆しました。

書名の「懲毖」とは、『詩経』の周頌・小毖篇に由来し、後の災難を防ぐための教訓を意味します。

内容

本書には数々の逸話が記されており、いくつかの代表的なエピソードを紹介します。

• - 1586年、宗義智の家臣である柚谷康広が秀吉の書信を携え朝鮮を訪れ、朝鮮軍の槍の長さを笑ったことが述べられています。この出来事は、当時の朝鮮軍に対する日本側の侮蔑の表れとも言えます。

• - 1591年には、日本に派遣された通信使が帰国報告の際、黄允吉の発言が注目されます。彼は「必ず兵禍がある」と警告したのに対し、副使の金誠一は「そのような兆候は見えない」と返答しました。この二人の認識の違いが後の流れを変える重要な要素となったことも思い起こさせます。

• - 1592年4月15日、東萊での戦闘では、宋象賢が日本軍に対して命乞いを拒否し、最後まで守り抜いたエピソードが語られています。彼の勇敢な行動は日本側に賞賛され、その死は彼の名を後世に残すこととなりました。

• - また、沈惟敬と小西行長の関係など、戦局と人々の信義に関する記録も存在します。彼らの間にあった複雑な感情や戦争へのアプローチも描かれ、歴史の深みが垣間見えます。

• - 最後に、李舜臣の戦死も重要な出来事です。彼は戦況の切迫を感じ取ると同時に、自身の死を周囲に知られないよう願ったその言葉は、戦士としての覚悟を如実に示しています。

書誌と伝承

『懲毖録』の成立年は明確ではありませんが、柳成龍が隠居後に執筆したとされます。本書には2種類の古刊本があり、16巻本と2巻本が存在します。内容的には、16巻本が先に出現し、その後に2巻本が編纂されたと考えられています。また、1695年に大和屋伊兵衛による訓読版が刊行され、これにより朝鮮側の事情が日本側に伝わることとなりました。このことが日本-朝鮮間の書籍そのものの流通に波乱を呼び、1712年には輸出禁止の事態にまで発展しました。

このように『懲毖録』は、文禄・慶長の役に関する貴重な資料としてだけでなく、当時の人々の想いや出来事を生き生きと伝える歴史的な書でもあります。

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