戎谷南山

戎谷南山：菓子屋と画家の二つの顔を持つ、後三年合戦絵詞の模写に人生を捧げた男

戎谷南山（えびすや なんざん、1866年-1949年）は、明治から昭和初期にかけて活躍した画家です。秋田県秋田市土崎港で生まれ、本名は戎谷亀吉。しかし、彼の名は、壮大な歴史絵巻の模写によって後世に伝えられています。

南山は、本業を菓子屋として営んでいました。1886年、一家で秋田県仙北郡金沢本町村（現在の横手市）に移住し、家業を継ぎました。しかし、彼には絵を描くことが好きという並々ならぬ情熱がありました。

南山の芸術家としての魂を揺さぶったのは、移住先の金沢の歴史でした。特に、源義家と奥州の豪族との間で起こった後三年の役は、彼の想像力を強く掻き立てました。そして、彼は「後三年合戦絵詞」の模写をライフワークとして選びました。

明治34年（1901年）以降、南山は何度も上京し、帝室博物館に通いました。そこで所蔵されている「後三年合戦絵詞」を丹念に観察し、記憶に焼き付けました。なんと、博物館の便所を借りて、記憶を頼りに絵巻を書き写していたという逸話も残っています。長年に渡る努力の末、昭和15年（1940年）、補遺を含めた全5巻の絵巻を完成させました。

その作品は、各巻8間（約14.4メートル）もの長さがあり、鮮やかな色彩で後三年の戦の様子が生き生きと描かれています。その精緻な描写と、歴史への深い愛情が感じられる作品は、横手市指定文化財に指定されており、地元の誇りとなっています。

絵画以外にも、南山は地口灯籠の絵付けや狂歌をたしなむなど、多方面に才能を発揮しました。菓子職人としても、金沢の歴史にちなんだ「めっこカジカ」、「史跡せんべい」、「石諸越」といった銘菓を生み出し、地元に貢献しました。

大正10年（1921年）には、伊藤直純らと共に史跡保存会「金沢保古会」を結成し、精力的に活動しました。保存会の出版部では、自筆の絵はがきや案内書を作成するなど、郷土への愛を積極的に表現しました。

80歳を迎えてもなお、自宅から8キロメートルも離れた黒森山に登るなど、驚くべき体力と精神力を持っていました。晩年は、郷土の歴史と文化を伝えることに人生を捧げた、情熱的な人物であったと言えるでしょう。

彼の孫である戎谷源助氏は、昭和30年代に金沢町議会議員を務めたと伝えられています。南山の情熱は、その子孫にも受け継がれ、地域社会に貢献していると言えるでしょう。

戎谷南山は、菓子屋という本業を持ちながら、画家としての才能を遺憾なく発揮し、郷土の歴史と文化を愛し、その保存に尽力した人物でした。彼の生き様は、現代社会においても、地域社会への貢献や、情熱を持って自分の道を追求することの大切さを教えてくれます。彼の残した「後三年合戦絵詞」模写は、単なる絵画作品ではなく、一人の人間の生涯と、郷土への深い愛情の証と言えるでしょう。

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