成瀬は天下を取りにいく

『成瀬は天下を取りにいく』：青春のきらめきと、人と人との繋がりを描く連作短編集

宮島未奈氏による小説『成瀬は天下を取りにいく』は、2024年本屋大賞を受賞した話題作です。本書は、滋賀県大津市を舞台に、主人公・成瀬あかりの中学2年生の夏から高校3年生の夏までの出来事を描いた連作短編集で、成瀬シリーズの第一作目として大きな注目を集めています。

物語は、閉鎖を控えた西武大津店に毎日通う14歳の成瀬あかりから始まります。彼女は、幼馴染の島崎みゆきと共に、様々な出来事を経験し、成長していきます。個性豊かな登場人物たちが織りなす物語は、青春のきらめきと、人と人との温かい繋がりを鮮やかに描いています。

本書は全6編から構成されており、各編は独立した物語でありながら、全体を通して成瀬あかりの成長と周りの人々との関係性が丁寧に描かれています。

収録されている主なエピソード

「ありがとう西武大津店」: 閉鎖間近の西武大津店に毎日通う成瀬あかりの姿が描かれる物語。彼女の行動は、一見奇異に見えるものの、その行動の背景には、彼女自身の複雑な感情や、地域社会との繋がりへの思いが隠されています。この作品は、第20回『女による女のためのR-18文学賞』で史上初のトリプル受賞を果たした宮島氏の商業誌デビュー作です。
「膳所から来ました」: 西武大津店通いを終えた成瀬あかりは、お笑いの世界を目指すことを決意し、島崎みゆきと漫才コンビ「ゼゼカラ」を結成します。M-1グランプリ出場を目指す彼女たちの奮闘や、文化祭での舞台裏などが描かれ、青春の熱意と葛藤がリアルに表現されています。
「階段は走らない」: 滋賀県から大阪へ通勤する稲枝敬太が、西武大津店の閉店をきっかけに、小学校時代の同級生たちと再会する物語。過去の出来事や、失われた友情の再生がテーマとなっており、ノスタルジックな雰囲気と、現代社会の繋がりへの問いかけが共存しています。
「線がつながる」: 進学した高校で、中学時代に苦手意識を持っていた成瀬あかりと同じクラスになった大貫かえでの視点から、成瀬や周囲の人々との関係性が描かれる物語。異なる価値観を持つ人々がどのように関わっていくのか、人間関係の複雑さと繊細さが丁寧に描かれています。
「レッツゴーミシガン」: 全国高校かるた大会を舞台に、広島県代表の西浦航一郎が成瀬あかりに惹かれていく物語。大会での緊張感と、青春の恋の始まりが爽やかに描かれています。
「ときめき江州音頭」: 高校生活を通して、成瀬あかりと島崎みゆきの絆が深まっていく様子が描かれる物語。将来への不安や、別れを目前にした友情の深さが感動的に描かれています。

多彩な登場人物

物語には、成瀬あかりと島崎みゆきの他に、個性豊かな登場人物たちが数多く登場します。それぞれのキャラクターが、物語に深みと奥行きを与えています。特に、幼馴染の島崎みゆきは、成瀬の傍らで見守り、支える存在として重要な役割を果たしています。

数々の受賞歴

『成瀬は天下を取りにいく』は、『坪田譲治文学賞』、『本屋大賞』など、数々の文学賞を受賞しており、その高い評価が物語の質の高さを証明しています。

オーディオブック化とコミカライズ

本書は、Audibleとオトバンクからオーディオブックが配信されており、また、『コミックバンチKai』でコミカライズ版が連載開始されるなど、多様なメディア展開がなされています。

『成瀬は天下を取りにいく』は、青春の輝きと、人と人との繋がりを感動的に描いた傑作です。読み終えた後には、きっと温かい気持ちと、人生の新たな希望を感じることができるでしょう。

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