我街の誇り

社会人野球を象徴する公式テーマソングとして位置づけられているのが、「我街の誇り」（われらのほこり）です。この楽曲は、著名な作家である伊集院静氏が作詞を、多数のヒット曲を手がけてきた作曲家であり編曲家の林哲司氏が作曲・編曲を担当した、社会人野球のためのアンセムともいえる一曲です。

この歌が制作されたのは、2019年という記念すべき年でした。具体的には、日本の社会人野球における最も権威ある大会の一つである都市対抗野球大会が、その歴史を積み重ねて第90回を迎えたこと、そして社会人野球界全体を統括する公益財団法人日本野球連盟が設立から70周年という節目を迎えたことを祝し、これらの重要な出来事を記念するために企画・制作されました。両者にとって大きな節目となる年を彩る楽曲として、「我街の誇り」は誕生したのです。

都市対抗野球大会は、各企業やクラブチームが本拠地とする「街」の名前を冠して出場し、その地域や市民の期待を背負ってプレーする独特のスタイルを持つ大会です。選手たちは自らの技術や情熱を披露するとともに、故郷への誇りや応援してくれる人々への感謝を胸にグラウンドに立ちます。この大会の根幹にある「街への誇り」という精神性を、楽曲タイトルである「我街の誇り」は見事に捉えています。この歌は、出場チームの選手たちが困難に立ち向かう勇気を得るための支えとなり、スタンドで熱い声援を送るファンや市民にとっては、自分たちの街への愛着とチームとの一体感を深めるためのシンボルとなることを目指して作られています。

作詞を手がけた伊集院静氏は、小説家として数々の文学作品を発表し、その卓越した筆致で知られていますが、同時に熱心な野球ファンとしても知られています。彼の人間ドラマを描き出す手腕は、このテーマソングにおいても、単なるスポーツの歌に終わらない、選手の内面やそれを支える人々の思いに寄り添う深い歌詞世界を生み出していると考えられます。一方、作曲・編曲を担当した林哲司氏は、1970年代以降、歌謡曲やポップスを中心に数多くのヒット曲を生み出し、日本の音楽シーンを牽引してきた音楽家です。彼の洗練されたメロディーメイキングと的確なアレンジは、「我街の誇り」に力強さ、感動、そして高揚感を与え、聴く者の心を揺さぶる楽曲として完成させました。

「我街の誇り」が初めて公の場で披露されたのは、2019年7月19日に東京ドームで行われた、第90回都市対抗野球大会の開会式でのことです。記念すべき大会の幕開けを飾る重要な場面での歌唱という大役を務めたのは、日本を代表するオペラ団の一つである藤原歌劇団のメンバーたちでした。日頃からオペラ舞台で鍛えられた彼らの豊かな声量と表現力によって、「我街の誇り」は壮大かつ情感豊かに歌い上げられ、開会式に集まった多くの観客、そしてこれから熱戦を繰り広げる選手たちに、深い感動と勇気を与えました。プロのオペラ歌手による歌唱は、この楽曲が単なる応援歌ではなく、芸術的な側面も持ち合わせていることを示唆するものとも言えます。

「我街の誇り」は、それ以降、社会人野球の様々な場面で親しまれています。都市対抗野球大会をはじめとする主要な大会の開会式や試合中の演出などで使用されることで、選手たちにとっては奮起を促す歌となり、観客にとってはチームや地域への思いを共有する歌となっています。このテーマソングは、社会人野球が持つ地域密着性、企業や地域社会との絆、そして選手たちの情熱と誇りを象徴する楽曲として、今後も社会人野球の歴史と共に歌い継がれていくことでしょう。日本野球連盟にとっても、社会人野球の魅力を広く伝え、競技の更なる発展を目指す上で、「我街の誇り」は重要な役割を担う存在となっています。この歌を通して、より多くの人々が社会人野球に興味を持ち、その熱気や感動に触れる機会が増えることが期待されます。社会人野球を愛する全ての人々の心に響き渡る「我街の誇り」は、まさにその名の通り、関わる全ての人の「誇り」を歌い上げる楽曲と言えるでしょう。

もう一度検索