戦ふ兵隊

映画『戰ふ兵隊』について

『戰ふ兵隊』（たたかうへいたい）は、1939年に日本で公開が予定されていたが、厭戦的な内容が問題となり、上映が禁止となったドキュメンタリー映画です。本作は亀井文夫が監督を務め、東宝映画文化映画部によって製作されました。
映画の内容は戦争の現実を捉えたものであり、兵士や一般市民が受ける苦痛を描いていますが、その厭戦的な視点が当時の社会に反するものであったため、検閲により公開が不許可となりました。

制作の背景

『戰ふ兵隊』は、1937年から始まった日中戦争の最中に、陸軍省報道部の後援を受けて製作されました。映画制作には、亀井の他にもカメラマンや録音技師などが関わり、約5ヶ月にわたって武漢作戦に従軍しながら撮影が行われました。
亀井監督は、当時主流の戦争映画、特に兵士が勝利を祝う姿を描いただけのプロパガンダに反発し、より人間的な視点から戦争の苦悩を記録しようとしました。
亀井は、戦争の悲劇を訴えかける内容を制作する中で、「戦争からの解放」を内部的に願っていたと言われています。

検閲と公開禁止

しかし、映画の内容には当時の日本軍に対するあらゆる批判が含まれていました。家を焼かれた子供たちや、戦死した夫からの手紙を読む戦友など、戦争の無情さを映し出したシーンが「厭戦的である」として内務省の検閲によって問題視されました。最終的に、本作は上映不許可となり、ネガも処分されてしまいました。このため、『戰ふ兵隊』は長らく幻の映画として知られることになったのです。

公開禁止後の影響

亀井監督は、1941年には治安維持法違反で逮捕され、監督免許を剥奪されました。その背景には、本作が含まれていたとされています。戦後、亀井は新たな映画『日本の悲劇』を制作しましたが、これもGHQの再検閲により公開禁止の憂き目に遭いました。
映画のネガが処分されたため、その後しばらくは映像としての記録は残らなかったものの、1975年にポジフィルムが発見され、再び注目を浴びることになります。その後の上映会やビデオ、DVD化を通じて、映画史上の重要な作品として再評価されていきます。

現在の評価

『戰ふ兵隊』は、戦死した兵士を描いたシーンが現存しないものの、そのテーマや展示された苦悩は、今なお多くの人々に影響を与えています。また、1975年に放送されたドキュメント番組では、この映画がなぜ検閲されたのかが解説され、その重要性が改めて確認されました。これにより、本作は戦争映画の中でも特異な位置づけをされることとなったのです。

このように『戰ふ兵隊』は、戦争の悲しみを描きつつ、当時の社会情勢や検閲制度の厳しさを映し出す貴重な映画として、未来に語り継がれていくべき作品です。

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